「情熱大陸」に夢中な人も知らない泥臭い裏側 放送20年の長寿番組が支持され続けるワケ

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相手の心を開かせたいのなら、「仕事で来ている」という前提で接しないこと。ビジネスパーソンにとっても、参考になる距離感の取り方ではないでしょうか。

定番こそ現状維持ではなく挑戦を

いまや他局のバラエティだけでなく、自局系列の大ヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)でもパロディに使うほど世間に浸透し、影響力の大きい番組となった「情熱大陸」。ただ、それは同時に「番組がパターン化されている」という印象につながる危険な兆候ともいえます。

「番組のステータスがどんどん上がっていくとしたら、皆さんの中でイメージが作られていくということにもなるので、すごく難しい状況だと思っています。制作者たちが“『情熱大陸』らしさ”を求めたときに、何もしなかったらアウト。やはり少しずついろいろなところを変えていかなければ、“『情熱大陸』らしさ”は薄れてしまう気がします。

だから現場ではつねに違うことを考えていますし、実際7年前に僕がプロデューサーになったときと現在では、作り方がまったく違うんですよ。『変わっていくことを意識して、ようやく世の中についていける』という感じです」(福岡さん)

そんな危機感を抱き続けてきた福岡さんは2011年の東日本大震災後、宮城県石巻市の石巻日日新聞に密着し、9月にはドキュメンタリー番組としては異例の生放送を行いました。また、翌2012年6月には「井上真央さんがディレクターとなって小田和正さんを撮る」という斬新な企画を放送。「『情熱大陸ってこんな感じだよね』というふうになったら衰退する」「劇的な革命ではなくて、小さな革命を起こし続けることが重要」と語る福岡さんならではの挑戦が続きました。

家電、自動車、食品、衣料品、各種サービスなど、「人々の生活に密着した定番商品ほど、現状維持ではなく、挑戦を重ねることが必要」というビジネスセオリーは、テレビ番組でも同様だったのです。骨太かつスタイリッシュな印象もあった「情熱大陸」が、実はどの番組よりも愚直にかつ泥臭く、成功をつかみ取っていた――。見方を変えれば、番組自体が、情熱であふれているからこその成功だったともいえるでしょう。

そんな福岡さんは、2017年の放送でプロデューサーを退任。しかし、「『葉加瀬さん、窪田さん、人物密着ドキュメンタリー』の3拍子さえそろえば何やってもいいし、何でもやらなきゃいけないんじゃないかなと。そういう形で時代と一緒に駆け抜けていけたら」(福岡さん)と語るように、その時々のプロデューサーが意思を継ぎ、挑戦を続けるかぎり、番組の根幹が揺らぐことはないでしょう。

最後に手掛ける放送は、17日の「情熱大陸20年記念スペシャル」。“史上最大の巨木輸送による世界一のクリスマスツリープロジェクト”に挑む西畠清順さんにスポットを当てるほか、葉加瀬太郎さんの生演奏、窪田等さんの生ナレーションを盛り込んだ豪華版です。次回のコラムでは、このスペシャル番組とビッグプロジェクトにスポットを当てるので、請うご期待。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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