「情熱大陸」に夢中な人も知らない泥臭い裏側 放送20年の長寿番組が支持され続けるワケ

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しかし、「実際、『経営者なら社会性のある事業』と言い切れないところもあって……もしかしたらビッグマネーを動かす人に焦点を当てる可能性もゼロではありません。出演してもらうことで、いろいろなお墨付きを与えてしまうところもあるので、やはり慎重になりますが」(福岡さん)

番組出演によってステータスや好印象を与えてしまうほか、業績にも大きな影響を及ぼしかねないため、やはりビジネスパーソンの人選には慎重なようです。

ちなみに、2015年4月12日放送の肺移植医・大藤剛宏さんは、福岡さんに逆オファー。「世界初の手術をやるから」と岡山から手紙を送り、やり取りを経て密着が決まったようです。「ストレートな売り込みも、人物と内容次第では可能性がある」ということでしょう。

「質の高さ」は必ずしも重要ではない

気になるのは、密着期間と予算。1回30分間の映像を撮影するまでに、どれくらいの期間が必要なのでしょうか。「向田さんは2年間、菜々緒さんは2カ月間、撮りました。対象によって期間はそれぞれですが、いちばん多いのは3カ月から半年の間。ただ、5年かけたものもありますし、1週間くらいで終わったものもありますし、その辺りはあえて設定していません」(福岡さん)。

となると、予算も当然、「期間の長さだけでなく、東京なのか、それとも外国なのかなど『どこで撮るか』によっても違いますから、毎回『今回はどれくらいにしようか』という企画ベースになります」(福岡さん)。

企画ごとに密着期間と予算を決めながら放送し、「年間トータルでバランスを取ればいい」というスタンス。もともと「情熱大陸」は、葉加瀬太郎さんの曲と、窪田等さんのナレーション以外は、人物密着のみのシンプルな構成だけに、密着期間と予算を柔軟に増減しやすいのでしょう。視聴者側としても、「あの曲とあの声を聞けば、自然にスイッチが入り、期待感が高まっていく」。そんなシンプルな“フレーム力”が同番組の強みとなっているのです。

ただし、「密着期間ずっとカメラを回していればいい」というものではありません。番組の盛り上がりを作り、視聴者の満足度を上げるための“撮れ高”が必要になりますが、その基準は意外にもあっさりとしたものでした。

「『だんだん、かしこまった雰囲気でなくなってきて、自然な言葉が聞けたら、まずはOK』というところはありますね。もともと企画を通すときに、『これができたら放送にはなるよね』という60点ラインを決めておくのですが、やはりその最低ラインは避けたいじゃないですか。あくまで100点を意識してやっているので、直前で急きょラインナップを入れ替えるとか、放送が後倒しになるのは日常茶飯事です」(福岡さん)

福岡さんがプロデューサーとして行っているのは、「すべての放送で60点は確保しつつ、100点を狙うために責任を背負って放送順を入れ替える」という品質管理。品質を安定させながら挑戦を繰り返し、時に思い切った決断を下しているようです。

「勢いが大事なときもあって、りゅうちぇるさんの撮影は3カ月以内で終わらせました。映画などとは違って、作品の質がどうこうよりも『今すぐ見たい』というニーズに応えたい気持ちもあるので、そういうときは電光石火でいきます」(福岡さん)

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