中国初の国産ジェット”ARJ21”初飛行へ、深まる米中の航空蜜月



 「米中の良好な関係の背景には、FAAに対する米国の航空部品サプライヤーの働きかけがある」。三菱総合研究所の奥田章順主席研究員はそう指摘する。

ARJ21の開発・製造には、素材から検査まで約90社・機関が参加しているが、このうち中国企業は機体組み立てなどのAVIC�系列4社のみ。大半がGEやロックウェル・コリンズをはじめとする米国企業。ボーイングまでがエンジニアリングのコンサルタントとして名を連ねている。すなわち、ARJが中国と世界で売れれば、米国の航空産業も儲かる構造。米国が認証取得に向け後方支援するのも当然なのだ。

対新興諸国に生かす 得意のトップセールス

裏返して言えば、国産ジェットといっても、中国が製造するのは“どんがら(機体)”だけ。だが、中国で国産と称する工業製品が、実際には核心技術の大半を外資企業に依存している例は、決して珍しくない。代表例が自動車や鉄道車両だ。13億人の巨大市場への参入権と引き換えに技術を移転する交渉は、外資企業にとっても“グッドディール”。さらに中国以外の市場にも拡大の余地があるとなれば、そのうまみは計り知れない。

外資による技術移転で、中国の航空機産業が急速なキャッチアップを実現できるかは不透明ではある。実際、中国の航空機産業は建国直後より旧ソ連の軍用機をライセンス生産し、1980年代には米マクドネル・ダグラスの双発小型ジェットMD80と同90の組み立てを行ってきた。だが独自技術は開花しておらず、ARJ21の機体設計をとっても「MD90の焼き直し」(航空関係者)と呼ばれる水準にとどまっている。

ただ中国は、新興諸国へのトップセールスには長けている。過去にはソ連の軍用機を民間機に転用し、ジンバブエやボリビアに売った実績があり、ARJ21もすでにラオス政府の2機購入が決まっている。

多くの国で航空産業は政府の規制下にあるため、「個人が購入する自動車などと異なり、航空機は政治的な力学でビジネス実績が決まりやすい」(前出・奥田氏)。米国やフランスの大統領が外遊のたびに軍用機や民用機を“売り歩く”のもその一つ。中国がここ数年盛んに経済支援をしているアフリカがARJ21の潜在的大市場となる可能性は十分だ。

東北大学大学院の中橋和博教授(航空宇宙工学)は、「ブラジルのエンブラエルには、市場での販売実績が上がるにつれ技術水準も向上するプラスの循環が生まれた」と指摘する。米国企業とタッグを組む中国の「商才」は、同じ循環を中国に呼び込むことができるだろうか。

(週刊東洋経済編集部)

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