「結婚を妨害する親」に38歳娘はこう抵抗した 婚約破談、離婚という経験を乗り越え…

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由佳さんは38歳になっていた。一人暮らしをしたために「夜9時の門限」もなくなり、章一さんとも自由に付き合えるようになった。半年後には一人暮らしのアパートは維持したまま、章一さんの家で暮らすことに。両親はうすうす気づいていたかもしれないが、週末の電話と月1の帰省を守っていれば束縛することはなかった。

「自分の家庭をちゃんと作りたい」

それから3年。今年に入って、60代後半になった両親の勢いが少し弱まってきたことに気づいた由佳さん。チャンス到来である。車で1時間ほどの実家に帰省した際に、「籍を入れるから」と切り出した。予想どおり、両親は弱々しく激怒して「勝手なことを言うならこの家から出ていけ」と通告。すでに家を出ている由佳さんが待っていた言葉だった。

「1週間後に母親から電話がかかってきて『本当に籍を入れたの?』と聞かれました。婚姻届を無事に提出したと答えた途端に電話を切られてしまいましたけど……」

その後、両親からの干渉は減った。結婚を認めてくれたわけではなく、あきらめ始めたようだ。由佳さんは改めて結婚を報告し、自分の素直な気持ちを両親に伝えた。

「私は一人っ子だから独身のままだといずれ一人ぼっちになってしまう。自分の家庭をちゃんと作りたい」

両親は無言のまま由佳さんの話を聞いていたという。自分たちの老いを感じつつ、一人娘の行く末に少しは思いを巡らせたのかもしれない。歳月を味方につけた由佳さんの粘り勝ちである。

「3年近く同棲してきたので生活は何も変わりませんが、結婚して精神的に楽になりました。ようやく正々堂々と夫婦になることができてすごくうれしいです。この決め方でよかったのかな、もっと早く結婚することはできなかったのかな、と振り返ることはいろいろあります。一人暮らしをしていたときは友達から『そんなことをしてないでさっさと籍を入れなよ』としかられて傷つきました。確かに回り道だったかもしれません。でも、私には必要な道のりでした。親との縁を切ることはできませんから」

あまりに強烈で非常識な両親を持ったおかげで、仕事でクレーマーと遭ってもまったく動じることがないと笑う由佳さん。時間をかけて、自分の力で問題に対処してきた人の強さを感じる。その強さはこれから幸せな家庭を築いていくうえでも大いに役立つことだろう。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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