日本の自動車メーカーが生き残る道は、ある 成毛眞がアタリ流に未来を予測!

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では、私も『2030年 ジャック・アタリの未来予測』のジャック・アタリ氏に倣って、変化の本質に迫りながら、自動車業界についていくつかの未来予測をしてみよう。

最初は、自動車の覇権について。これは世界市場の4割を占める中国市場がカギを握っている。その中国の野望は日本とドイツを押さえつけて、自らが自動車生産で世界ナンバーワンになることだ。しかし、それをガソリン車やディーゼル車で行おうとしたら、100年かかってもトヨタやフォルクスワーゲンに勝てないことは、彼らも重々承知している。

そこでどうしたかといえば、中国は電気自動車(EV)に舵を切ったのである。経験に裏打ちされた技術開発が必要な内燃機関では太刀打ちできなくても、モジュールの組み立てで対応できるEVであれば、自国のベンチャー企業でも生産できるからだ。実際、すでに中国は、国内で販売される自動車のうち2018年は8%以上、同2019年は10%以上を、電気などの新エネルギー車にすることを義務付けている。中国市場に大きな比重を置いているEUやアメリカの自動車業界も、こぞってEV化に取り組み始めた。

ゆえに日本の自動車メーカーも、これまでのガソリン車の技術を捨ててEV化を行う以外、生き残る道はないのだ。ところが、私が先日この話を自分のフェイスブックに書いたところ、「日本は中国の顔色なんてうかがう必要はない」「日本の自動車メーカーはこれまで培った中国にまねできない技術で勝負していくべき」といったたぐいの書き込みが少なからず寄せられ、これにはかなり驚いた。

自動車の日本市場など世界のわずか5%しかないのである。国内のビール市場でいえばオリオンビール。ファンがいるからとオリオンビールだけ造って満足していたら、そのうちどこかに吸収合併されてしまうのが関の山だ。だから、トヨタやニッサンも必ずEVがメインになる。そうしないかぎりいまの企業規模は維持できないから当たり前なのだが、そういう認識ができない人が意外と多いのだ。

私は、日本の自動車産業がオリオンビールのようになるとは思っていない。それに、EVが主流になっても勝ち目は十分にある。EVに不可欠な電池の技術に関しては、日本はいまも圧倒的な優位に立っているからだ。逆にいえば、この電池技術こそが日本の自動車業界の生命線といってもいいだろう。国内の各自動車メーカーが電池の技術を開発してクロスライセンスを行う。さらに、それらを特許でガチガチに固めて中国メーカーに売り込むことに成功すれば、世界市場がEV化しても日本の自動車メーカーは安泰なのである。

自動運転は当面トラックだけ

次に、自動運転。これは技術的にはすでに十分可能だ。むしろその実現は技術より、各国の道路行政に負うところが大きい。日本とアメリカであれば、明らかに日本のほうが早いと私はみている。

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なぜなら、日本の場合は、高速道路がフリーゲートのアメリカと違って、インターチェンジにゲートがあるので、高速道路の一車線を自動運転トラック専用にするといったことがやりやすいからだ。また、アメリカでは、無人のトラックはかなりの確率で強盗に襲われ、荷を奪われる可能性が極めて高い地域がかなりあるので、その対策にもまだまだ時間がかかるのではないだろうか。

さらに、自動運転は当面トラックだけだろう。ニューヨークのタクシー運転手はヒスパニック、インド人、アラブ人といった移民の仕事だが、彼らの賃金は驚くほど低い。

AIを搭載して無人化すると、いまのところ逆にコストが上がってしまうからである。機械より安い金額で働く人間がいるかぎり、その分野で自動化は起こらないのだ。

(構成:山口雅之)

成毛 眞 元日本マイクロソフト社長、HONZ代表

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なるけ まこと / Makoto Naruke

1955年北海道生まれ。元日本マイクロソフト代表取締役社長。1986年マイクロソフト株式会社入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、書評サイトHONZ代表も務める。『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト』(KADOKAWA)、『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』(SB新書)など著書多数。

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