「パワースポット」、メディアの仕掛け人たち 精神世界の追求から、恋愛、癒しへと向かった

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天河大弁財天社が若いアーティストの間でもてはやされるようになったのは1980年代に入ってから。音楽家の宮下富実夫が、毎年大祭に曲を奉納するようになったことがひとつの契機であった。1987年に長渕剛と志穂美悦子の結婚式、1989年に正遷宮大祭(能・狂言とともに宮下、細野、喜多嶋修、ブライアン・イーノらが奉納演奏)、1991年に映画『天河伝説殺人事件』公開、さらに『ガラスの仮面』で人気の少女漫画家美内すずえが自身のチャネリング体験を著した『宇宙神霊記』で天河を紹介等々によって、「テンカワ・ブーム」といわれるようになる。当時の柿坂宮司は「天河にはエネルギーがあるんです。パワーが満ちている。ここへ来ると、皆、何かに気づいて帰っていく。新しい発見。エネルギーの発見。宇宙への感謝。それが天河パワーです」(『CREA』1991年1月号、文藝春秋)と力強く語っていた。なお、柿坂宮司にはインドを放浪した経験があるという。

天河大弁財天社が宇宙的バイブレーションを感じられるサイキック・スポットとしてもてはやされた1991年、スプーン曲げで知られる清田益章が『発見! パワースポット』(太田出版)を刊行。「パワースポット」を書名に掲げた初の単行本であり、現在では数多あるパワースポットガイドの先駆けとなる。

『太陽』1994年1月号(平凡社)の特集は「日本聖地観光」。巻頭には作家の井沢元彦による立山信仰に思いを馳せたエッセイが掲載され、「天と地を結ぶ7つの聖地」として箱根、那智、鞍馬、富士、諏訪、新宮、厳島の紹介が続く。このなかで民俗学者の小松和彦は、「日本人にとって、聖地を観光することは、神社仏閣を参拝するというだけでなく、それを包み込んでいる自然の偉大な力を感じ取ることであり、その力を借りて自らを浄化し、よみがえることであった」と述べている。この特集は、天河や清田のようにサイキックなバイブレーションを前面に出していないが、「本来の日本」を思い描こうとするメンタリティと「ディスカバー・ジャパン」「エキゾチック・ジャパン」が響きあう。

2000年代、「神秘体験」から「癒し」へ

1990年代のパワースポット・聖地観光は、1970年代以来の「精神世界」への旅の延長線上にあるといえる。しかし、2000年代に顕在化した女性に人気のパワースポットは、これとは異質である。彼女たちがパワースポットに求めたものは、神秘体験ではなく「(恋愛)祈願」と「癒し」。「癒し」「自己回復」が前景化したパワースポットでは、「自己の限界」「本来の日本」などは後景に退く、あるいは無関係となる。

招き猫発祥の地といわれる今戸神社の「祈願絵馬」

2000年代、女性誌がパワースポット特集を組むようになるが、その時にはすでに箱根の九頭龍(くずりゅう)神社が口コミで人気のパワースポットになっていた。こうした女性たちの動向を捉え、パワースポットとしてブランディングに成功したのが、東京大神宮と今戸神社である。東京大神宮では、フリーペーパーの初詣特集で、ご利益欄に縁結びを加えたことが1つの契機となり女性参拝者が増加。女性参拝者のために、巫女さんたちの意見を取り入れて「縁結び鈴蘭守り」を開発。以来、毎月花の絵が変わる「花祈願絵馬」などの授与品を揃え、境内では「癒し」を感じてもらえるよう四季感を演出。夜はライティングと警備員の巡回で、遅い時間に1人で訪れる女性参拝者に安心感を与えている。今戸神社は、招き猫、ファンシーな御朱印帳、まるくてかわいい絵馬、といった授与品で縁結びをアピール。実際に男女を引き合わせる「縁結び会」を主宰。恋愛・婚活を指南する宮司夫人こそパワースポット、と評されている。

2003年に「Hanako WEST」で江原啓之の連載「スピリチュアル・トラベル」(のち「スピリチュアル・サンクチュアリ―江原啓之神紀行―」シリーズ)がスタートし、縁結びに限らないパワースポットへの関心が高まった。ヴォイス社は2001年9月に『世界のパワースポット―癒しと自分回復の旅ガイド―』を刊行していたが、2004年から売り上げが再び伸び始めたという。2008年になると女性誌だけでなく、情報誌、週刊誌でもパワースポット紹介が掲載されるようになる。

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