"宏池会のプリンス"岸田文雄氏の悩める日々 ポスト安倍で「直接対決」か?「禅譲期待」か?
総理大臣に直結する自民総裁選をめぐる党内の構図は、5年前の第2次安倍政権発足時からも、政局の節目ごとに変化している。首相の再登板実現は、2012年9月の前々回総裁選での勝利によるものだ。第1次政権発足から1年たった2007年9月に体調不良で退陣を余儀なくされた首相が、後見人の森喜朗元首相らの反対を押し切って総裁選再出馬を決断、下馬評を覆して決選投票で石破茂・元地方創生相を破り、3カ月後の衆院選で自民が圧勝したことで首相に返り咲いた。しかし、その時点では1強政権とはならず、地方票では首相を上回って党内ナンバー2の幹事長に就任した石破氏が、「最強の後継候補」とされていた。
現在のような首相への権力集中は、2013年夏の参院選勝利以降のことだ。これに続く2014年の消費増税延期を解散理由とした年末衆院選での圧勝、さらに2016年夏の参院選と2017年10月衆院選も加えた過去に例のない国政選挙5連勝で、現在の1強政権が築かれた。
その間、2015年9月の総裁選が石破氏の不出馬で首相の無投票再選となったことで、ポスト安倍候補も流動化して、岸田氏が台頭した。しかも、今年3月の自民党大会で総裁任期が連続3期に改定されて、「ポスト安倍」の最終ゴールも3年先延ばしとなった。2012年総裁選の「本命」候補でもあった石破氏に対し、岸田氏が首相の有力後継候補に浮上したことで、2015年の総裁再選後のポスト安倍の構図は「岸田vs石破」に変わった。
しかし、10月衆院選の自民圧勝で首相の総裁3選が現実味を増したことにより構図はさらに複雑化し、現状をみると次期総裁選出馬を公言する野田聖子総務相だけでなく、「次の次」を目指す河野太郎外相に、「次世代の星」の小泉進次郎筆頭副幹事長までが次期総裁レースへの参加をうかがう状況となりつつある。
3選支持で不出馬なら「覚悟」が問われる
もちろん、「一寸先は闇」とされる政界だけに「来年秋のことなど誰にも分からない」(小泉氏)とはいうものの、現時点では「安倍さんよりできる人はいない」(二階俊博幹事長)との安倍3選支持論が党内の多数派となりつつある。このため、岸田氏にとっては「来年9月に出るか出ないか」が最大の問題となっている。
過去の総裁争いからみても、続投を目指す首相の対立候補として出馬すれば、これまでの「安倍・岸田蜜月関係」の崩壊は確実だ。その一方で、首相3選後の"禅譲"を期待するような形での不出馬では、総理・総裁候補としての「覚悟」が問われかねない。「総理総裁の座は戦い獲るもので、禅譲などあり得ない」(首相経験者)のが政界の常識だからだ。
総裁選を左右するのは党内での「多数派工作」だ。3選論の根拠は、首相の支持母体で圧倒的な最大派閥・細田派に加え、首相の後見人を自認する麻生太郎副総理が率いる第2派閥・麻生派や5大派閥の一角を占める二階派が「3選支持」を明確にしていることだ。この3派に無派閥で首相支持の議員を加えれば党国会議員の過半数となり、前々回のような国会議員による決選投票にもつれ込んでも、首相の勝利は動かないというわけだ。
このため首相が出馬する場合は「岸田氏が出馬しても2位狙い」(自民幹部)で、安倍・岸田関係への悪影響も考慮すると「挑戦してもデメリットのほうが大きい」(岸田派幹部)ことにもなる。
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