生地の軽量化が進んだことで、生地が動きやすくなったために縫い付ける作業は難しくなった。それでもシンプルな図柄なら2、3時間で1着を仕上げることができる。服を作る職人は正典さんと、親類の河野祐子さん、岡田由美子さんの3人。経理を預かるのは亡くなった政平さんの妻太子(たいこ)さんだ。究極の家内制手工業である。これで1カ月に約60着、年間で約700着を手作業で仕上げる。自前で作る大手馬主もいるが、今も中央競馬の半数以上を手掛けている。
勝負服はジョッキーサイズと呼ばれるワンサイズ。同じジョッキーだけが使うのではない。伸び縮みする素材で大事に使えば7、8年持つという。馬主によってはゲンを担いで勝ったときの勝負服を修繕しながら長く使う人もいれば、勝ったときの勝負服にジョッキーのサインを入れて保管する人などさまざまだ。勝負服は1着2万円前後。思ったほど高価なものではない。急な出走が決まって出馬投票直後の木曜夕方に注文があり、土曜・日曜の競馬に間に合わせなければならないときもある。
「注文を受けた以上は必ず間に合わせたい。貸し服で走らせるのは気の毒ですからね。でも、木曜は1週間でいちばん嫌な日です」と笑う。そんな急な仕事でもプロの仕事で対応する。だからこそ信頼が生まれる。
新たな取り組み、技術も進歩
生地の色は蛍光色の一歩手前の鮮やかなもの。棚には鮮やかな色の生地が並ぶ。雨中で視界が悪いとき、実況アナウンサーの頼りは普段にも増して勝負服の鮮やかな服色になる。勝負服を見てどの馬が走っているかを判別しなければならない。普通の洋服には使わないようなカラフルな色が勝負服の魅力でもある。実績を挙げている馬主の勝負服は見ただけで馬が強そうに見えてしまう。これも勝負服の持つ不思議な力だろう。
昨年から正典さんは新たにメッシュタイプの勝負服を作り始めた。エアロタイプと同様の伸縮性があり、猛暑の中で身に着けたジョッキーたちからも好評である。試行錯誤を続けながら技術も進歩している。競馬のマチ福島にあって古くから勝負服を手掛けて、日本有数の技術とシェアを有してきた河野テーラーはわれわれ福島に住む人たちの誇りでもある。
正典さんは「これからも福島競馬が続くかぎり、福島でこの仕事を続けていきたい」。来年、創設100周年を迎える福島競馬場を河野テーラーは支えてきた。勝負服に込められた職人さんの心意気をぜひ思い起こしてほしい。
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