スウェーデン人がイノベーションに強いワケ 福祉と経済成長の"二兎を追う"原動力

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――日本はまだマーケットが大きいので、国内で売ることを前提として商品は企画され、日本語のみで記載されていますね。

スウェーデンでは逆にスウェーデン語のみで記載されている商品を見ることがほとんどありません。ゲームなども盛んですが、すべて初めから英語です。英語で作っているため、世界中をマーケットとしてビジネスを展開できるのです。

スウェーデンでは、ビジネスを立ち上げたときに最初から世界で売ることを考えて企画します。「どうしたら新しいマーケットを生み出し、グローバル展開できるか」を考えるのです。そのときに小さい頃から育まれた多様性への寛容と、考える力などが役立ちます。

国を挙げてイノベーションを応援

――イノベーションというとまずアメリカのシリコンバレーが頭に浮かびますが、2015年には評価額10億ドル(約1200億円)以上のベンチャー企業は5割がシリコンバレー以外で起業されています(英ベンチャーキャピタル・アトミコ調査)。その中でもスウェーデンは過去10年に設立された企業数が3位ですね。

イノベーションについて語るニクラス・クヴィセリウス博士(撮影:梅谷秀司)

スウェーデンではイノベーション庁があり、国を挙げてイノベーションに力を入れています。民間でも、スウェーデンでは会社から飛び出して起業したいという人を応援する土壌があります。成功した企業がスタートアップとしてこれからビジネスを拡大したい企業を応援する「エコシステム」があり、成功が成功を生み出す好循環を作っています。

これによって成功したゲーム会社などもたくさんあります。多様な価値観を持つ人が集まって考え、挑戦して失敗から学ぶというイノベーションが起こる要素があり、そしてその挑戦を社会全体が応援する流れがあるのです。

――若者は失敗を恐れたり、安定を求めたりしないのですか。

国の経済が安定していますし、職を失ってもセーフティネットがあります。学校の授業料がすべて無料なので、子どもの教育などの金銭的な懸念をすることなく安心してリスクをとることができます。

――子どもといえば、働き方がとても効率的なので、共働きでも子どもの世話もできますね。ビデオミーティングなども多いと聞きました。

広い国土に人が散らばっている中で効率的に働くために、デジタルコミュニケーションやモバイルコミュニケーションが早くに発達しました。スカイプが立ち上がったのもそうした背景があります。会社ではビデオミーティングは当たり前に行われており、大使館でもよく行いますよ。

「何がいちばん効率的か」を考えたときにわざわざ全員が同じ部屋に集まらなくてもビデオ会議を行えばいいのです。日本の方がスウェーデンの会社で働くと、ビデオ会議の多さにびっくりされるかもしれませんね。地方でもネットはつながっていますし、コンピュータリテラシーが高いので、都市部、地方関係なくスウェーデン全土でビデオ会議が行われています。

そして働く時間も、出社・退社時間が厳しく決められておらず、1日に働く時間数のみ決められています。自分のスケジュールに合わせて午前7時に来て、午後3時に帰ってもよいのです。子どものお迎えなどもあるので、そういう働き方が自然です。

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