「アップル」はいかにして日本に上陸したのか マンガ、ジョブズと日本人エンジニアの遭遇
大胆なネーミングには、人を食ったような響きがあった
あごひげをたくわえた若い説明員がもっともらしく口にしたこの言葉に、男は思わず苦笑してしまった。つい最近まで、「コンピュータ」といえば官公庁や大学の中に置かれる大掛かりな計算機を指した。マイコンがにわかにブームになっているものの、この大胆なネーミングには、人を食ったような響きがあった。
「普通のマイコンボードとは、どこが違うんだね?」
男が質問すると、若者は得意気に説明を続けた。
「ROMにBASICを内蔵していることです。つまり電源を入れればすぐにプログラムが動く環境が起動します。しかも家庭用テレビにそのまま接続できますから、高品質のカラーグラフィックを簡単に表示することができます。キーボードも一体化していますので、音のうるさいテレタイプを外付けで接続する必要などありません。いままでの組み立てキットと違って、購入してすぐに利用することができるというものです」
説明員の流れ出るような言葉は妙な自信に満ちていた。20歳そこそこの、スーツ姿もぎこちないこの若い説明員の言葉は、だが業界人であれば興味を持たずにいられない響きがある。
「ほう、チップは何を使っているのかね?」
「モステクノロジー社の6502です。どうぞ」
そう言って、若者は仕様をタイプ打ちした資料を一部手渡した。目を通してゆくと、それが6502を中心とした基板が内蔵された、ワンボックスのマイクロコンピュータであることがわかった。背面には、周辺拡張機器用のスロットをいくつか備えている。男は食い入るようにその資料に見入った。
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