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「アップル」はいかにして日本に上陸したのか マンガ、ジョブズと日本人エンジニアの遭遇

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彼自身、仕事としている基板制作のために以前から注目しているのがこの6502だった。業界で主流となっているインテルのものとは、まったく異なる特徴を持っているチップである。簡単な作りのこの資料には、確かに6502チップを中心に据えて非常にシンプルにデザインされた「パーソナルコンピュータ」が描かれている。

「ここのスロットは何に使うの?」

ふと顔をあげて尋ねると、すでに説明員は他の客の応対に追われながら、忙しそうに一言返した。

「将来発表されるであろういろいろな外部機器との接続用です」

《なるほど》

そうつぶやき、日本人の男は資料に目を戻すとしばらくの間眺めながら考え込んだ様子だった。男の名は水島敏雄といった。東京で「ESDラボラトリー」という小さな会社を営んでいる。マイコンの技術を応用し、分析、測定のための理化学機器の開発を行うために作った会社だった。

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ESDという名称は、Electronics Systems Developmentの頭文字をとった。

かつて、合繊メーカーの研究員として働いていた時代から大型コンピュータや技術計算用のミニコンに通じており、マイクロコンピュータの動向には早くから注目していた。

BASIC言語を内蔵し、接続用のスロットを搭載した、見るからに安価そうなこのワンボックスマイコンは、確かにそれまでのむき出しのボードマイコンからは進化したものだ。スロットが開放されている分、拡張性も高そうだ。

「これはいいね」

内容に目を通し終わった水島が思わずそう口にすると、他の客にも熱弁を振るっている説明員は忙しそうに振り返りながら自信に満ちた口調で言い放った。

シンプルであることが究極の美

「Simplicity is Ultimate Sophistication !(シンプルであることが究極の美です)」

資料と名刺を受け取ると、水島は会場を後にした。受け取った名刺にちらりと目をやると、そこには「アップルコンピュータ社 副社長スティーブ・ジョブズ」という名が記されていた。およそコンピュータ会社らしくない社名といい、年齢不相応の肩書といい、うわさで聞く西海岸のマイコンベンチャー産業を垣間見たような気がした。外に出ると、少し汗ばんだ体をカリフォルニアのさわやかな風が心地よく通り過ぎていった。

(漫画:うめ)

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