ECBの金融緩和からの「出口」はかなり難しい 量的緩和もマイナス金利も2020年まで続く
あまり周知されている事実ではないが、ECBの意思決定システムは分権主義的な思想の下に設計されている。
政策理事会のたたき台はあくまで役員会(正副総裁2人+理事4人で運営)における事前準備を経たものであり、そのメンバーは2つ以上の加盟国が重なって籍を置くことがないという不文律に基づき構成されている。役員会メンバーは常時投票権を持ち、「政策理事会のたたき台を作ったうえで政策理事会のメンバーとしても投票できる」という特別な存在であるため、国籍バランスに配慮があるのは当然である。
なお、現在はドイツ出身のラウテンシュレーガーECB理事が存在するため、仮にバイトマン独連銀総裁がECB総裁へ就任すれば同理事は途中退任することになろう。これはドラギECB総裁就任時にイタリア出身のスマギECB理事が途中退任を迫られている例からも推測できる話である。
議題には域内の多様な事情や意見が反映されている
意思決定に話を戻せば、そうした役員会に至る前段階でもECBスタッフおよび各国中銀(National Central Banks、以下NCBs)の代表者などから構成される専門委員会やワーキンググループといった下部組織の議論を経由している。つまり、最高意思決定機関である政策理事会に議題が上がってくるまでには域内の多様な意見や事情が考慮されるように制度設計されているのである。
詳細な議論は近刊の拙著『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』を参照いただきたいが、あくまでECBとNCBsが「主従関係」ではなく「補完関係」を築き、分権主義的な発想が大事にされている点はECBの政策運営を語るうえで重要な事実である。
もちろん、現実問題として、ECB総裁の地位にあるものが「最もタカ派で若い(バイトマン総裁はまだ40代である)」という構図が南欧を筆頭とする緩和志向の強い加盟国の敵対心を刺激する不安がないわけではない。しかし、現状ではドイツですら安定的に上昇率がプラス2%を超えてこないという物価環境を踏まえれば、細かな政策修正で摩擦があったとしても、政策理事会の分裂までを懸念するには至らないと筆者は考えている。次期ECB総裁人事について、現段階では、この程度の情報量で十分だろう。今後の情報を踏まえ、逐次認識をアップデートしていきたい。
(※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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