メディアを襲う"破壊的イノベーション" 読者・視聴者を3分の1失ったアメリカの報道機関

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では、天気予報や交通情報など朝晩のピークタイムに、米国人が最も頼りにするローカルテレビのニュース番組はどうか。4大ネットワーク局(CBS、ABC、FOX、NBC)のローカル局は夜のニュースで、2012年までの5年間に400万人もの視聴者を失った。有権者が興奮して、民主・共和両党の候補者のニュースを日々追いかける大統領選挙だった2012年も減少した。

「今でもニュース源としてナンバーワンだが、30歳以下の若い視聴者が離れ、下り坂の兆候がみえてきた」とミッチェル氏。24時間ニュースを提供するCNNなどケーブル・ニュース3局でさえ「とうとう、成長が止まった傾向がみえ始めた」と話す。「大統領選挙の年なのに、視聴者が24時間ニュースチャンネルに興味を失い始めた表れ。今後、どう視聴者をつなぎとめるのかが問題だ」。

そして、もうひとつの懸念が、「報道内容の低下が顕在化している」(ミッチェル氏)ことだ。人員削減や、コスト削減のせいで、費用がかからないニュースの報道に流れている。

「その結果、報道が、何かが起きてから取材する、というパターンに陥っている。だから、読者にはニュースの上澄みしかわからない。たとえば住宅市場の崩壊、金融危機など、小さな事象が長いこと積み重なってきているが、それが弾けるまで、どこも報道しないからだ」。

報道が減り、インタビューが倍増

報告書によると、次の3つの現象は象徴的だ。

2012年の新聞社編集局の正社員数は、1978年以来、初めて4万人を下回る見込み。2000年に比べると、記者や編集者の数が30%も減少し、ニュースの作り手自身が多く消えている。

ローカル局ニュース番組は、天気、交通情報、スポーツの割合が、2005年の32%から2012年には40%に膨らんだ。逆に取材が必要な犯罪や裁判のニュースは29%から17%に大幅に低下した。

一方、深い分析と現場主義を売りにしてきたCNNは、ニュース報道の時間が2007年の50%から2012年には24%に半減した。その代わり、人手も費用もかからないインタビューの時間が30%から57%にと倍増した。

限られたコストとマンパワーに合わせて作られた「その場しのぎの」ニュース。その質の変化に、米市民の3分の1が気づき、伝統的なニュースソースを離れた、というのが米国の報道機関が直面する厳しい状況だ。

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