マラウィ「イスラム過激派掃討」の恐ろしい話 ミンダナオ島現地取材でわかった市民の犠牲
ここで大きな疑問が残る。国際テロ組織アルカイダの支援を受けてテロ活動を行っていたアブ・サヤフは、米軍も加わった掃討作戦で一時は壊滅寸前に追い込まれ、現有勢力は200~300人と見られていた。最近はテロ組織というよりも、外国人や漁船員の誘拐を繰り返す海賊のような存在だった。マウテ・グループに至っては、違法薬物売買をファミリービジネスとする100人程度の“ならず者集団”にすぎないと見られていた。
仮に両派が全員集結し、他の過激派や外国人戦闘員が若干加勢したとしても500人程度にしかならず、テロリスト1000人を殺害したとする公式発表とは大きな開きがある。では、残りの死者は誰なのか。
残りの死者とは?
現地で話を聞くうちに、負傷者救護や住民救出に走り回った救援組織関係者の証言を得た。「声高には言えませんが、テロリストとされている何割かは一般市民です。救出された住民によると、人質にとられて『銃を持って戦わなければ殺す』と脅された例が多数あります。それにテロリストが立てこもった建物で見つかった遺体は、テロリストと住民を区別せずにカウントしているようです」。逆に市民の死者47人というのは少ないという。現場の状況を間近で目撃した人物だけに証言の信憑性は高い。
伝聞やうわさを含めて、現地では具体的で生々しい話が流布している。ある男性は「マウテはマラウィでも公然とシャブ(違法薬物)を売っていたので、結構な数の中毒者がいた。そういう連中を日当2万5000ペソ(約5万3000円)で誘い、シャブを打って興奮状態で戦わせたと聞いた」と話す。
「極貧家庭の親に20万ペソ(約42万円)もの法外な報酬を持ちかけ、子どもたちを戦闘員として連れて行った」という話も耳にした。過激派の狙撃兵に少年、あるいは女性がいたことは政府軍も認めている。
シャブ欲しさに戦闘に加わった中毒者を“一般市民”と呼ぶかどうかは別にして、少なくとも「過激思想に共鳴した多くのイスラム教徒が戦闘に次々と身を投じた」とは言えない。つまり、逃げられない状況で戦闘を強いられた人質の住民、カネや薬物目当てに戦闘に加わった者が、数百人単位で死亡したことになる。政府軍が掃討・救出作戦の成功を強調するあまり、“大本営発表”的な情報操作が加えられた印象はぬぐえず、本当に信用できるのは兵士・警官の犠牲者数だけと思われる。
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