給付抑制が「医療崩壊」に繋がるわけではない 給付と負担のバランスをどう取るべきか

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2018年の診療報酬改定について、今年ならではの案件があるとすると、それは「薬価制度の抜本改革」である。つまり、安倍内閣として取り組むことにした薬価制度の抜本改革で、薬価等の引き下げにつながる取り組みがあれば、それを今回の診療報酬改定に生かそうというのだ。

その1つとして、新薬の開発を支援するためとして設けられた、「新薬創出加算」という診療報酬の制度が焦点となっている。新薬創出加算とは、革新的な新薬の創出などを目的に、後発品(ジェネリック)のない新薬に薬価の加算を認めて、実質的に薬価が下がらないようにする仕組みだ。

これによって製薬会社は、趨勢的に下がるはずの薬価を維持でき、収益を確保できる。ただその新薬創出加算は、真に革新的な新薬かを厳密に精査せず、大半の新薬に認められているため、単純計算すると、直近で年約2500億円の加算が認められたのと同然の効果となっているという。ちなみに診療報酬総額の1%分とは4500億円である。

財務省は、この加算に対するゼロベースの見直しと、費用対効果についての評価を提案している。わが国として、革新的な新薬の創出は望むところだから、画期性や有用性をエビデンス(科学的根拠)に基づいて評価し、認められたものだけに薬価で優遇するという方向性だ。画期的でもなく、有用でもない”新薬”にまで、加算を認める必要はない。

薬価引き下げがないと保険料率は上がりかねない

薬価等をかなり引き下げられれば、診療報酬総額を大きくマイナス改定にできる可能性はある。薬価等で1%程度の引き下げしかできなければ、診療報酬本体でも1%程度の引き下げをしないと、総額としての診療報酬の2%半ばの引き下げはできない。よって被用者の保険料率も上がりかねない。

もちろん医療の今後を考えれば、今回の診療報酬改定では、医療機能の分化・連携の強化、地域包括ケアシステムの構築推進、患者への価値中心の安心・安全で質の高い医療実現をはじめ、細かな医療の検討項目を深く議論することは重要だ。それは総額としての診療報酬改定の議論と同時進行で、社会保障審議会医療保険部会や中央社会保険医療協議会(中医協)などで議論が進んでいる。

わが国の診療報酬改定のスケジュールとしては、来年度政府予算案の閣議決定までに医療費総額の改定率を年内に内閣が決め、総額の改定率が決まった後、年明けに細かな医療の各項目に対する診療報酬のメリハリづけを決める仕組みとなっている。ここはいったん立ち止まり、診療報酬のあり方について、本稿で述べたような議論も必要ではないか。

国民の医療費負担とのバランスを考えれば、給付抑制が「医療崩壊」につながるわけではない。年末に向け、診療報酬改定こそ、注視しなければならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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