次は知り合いの養護教諭から聞いた話です。ある中学生が友達とのトラブルについて母親に相談しました。ところが、悩みを少し話したところで、母親は「大丈夫だよ。こうすればいいじゃん」と励ましとアドバイスを始めました。それで、その中学生は、「そうじゃなくて、これこれこうで……」とさらに説明を続けました。すると、言いたいことを半分も言わないうちに、また母親が「じゃあ、こうすればいいよ。大丈夫。がんばりなよ」と励ましとアドバイスを始めました。
それで、中学生は「この人に何を言ってもムダだ。ぜんぜん話を聞いてくれない」と感じて話をやめました。そして、翌日の放課後、保健室に来てその愚痴を養護教諭に話したのです。その子は友だち関係のストレスと母親に対する不満で爆発寸前だったそうです。
養護教諭は、「大変だね。そういう人間関係は苦しいね」などと共感しながら聞いてあげました。すると、その子はだんだん笑顔になり、1時間ほど話してから「お腹がすいた」と言い残して元気よく帰っていったそうです。それからは、その中学生は養護教諭を慕うようになり、廊下で会うとうれしそうに話しかけたり、時には保健室に来て手伝ったりするようになったそうです。
この母親のように、親や先生というものは共感が苦手です。まず励まし、アドバイス、指導が先にきてしまうからです。もちろん、励まし、アドバイス、指導が全てダメというつもりはありません。子どものために必要なこともありますし、それで救われることが多いのも事実です。
でも、初めに共感がないままいきなり励ましたりアドバイスしたりしてしまうと、相手は「この人は私の話を聞いてくれない。私がどんなに大変かわかってもらえない。そんなに簡単な話じゃないんだよ」と感じて、心を閉ざしてしまうのです。
アドバイスや指導はたっぷり共感してから
大事なのは順番です。アドバイスや指導はたっぷり共感してからにしたほうがいいのです。具体的にいえば、「大変だね」「イヤだね」「疲れるね」「苦しいね」「悲しいね」「寂しいね」などの言葉が大切です。こう言ってもらえるだけで、相手は心を開いて素直な気持ちになることができます。
たとえば、姉が妹をたたいて泣かしたとき、「妹を泣かしちゃダメでしょ」「だって妹が私のおやつ取るんだもん」「言い訳しない。もうたたかないって約束しなさい」「イヤ」「1週間おやつなしだよ」「ヤダ、ヤダー!!」という展開になりがちです。
そうではなく、「どうしたの?」「だって妹が私のおやつ取るんだもん」「おやつ取られたの?」「そうだよ。この前だって取られたんだよ」「え、この前も?」「そうだよ。いつも私のおやつ取ってくる」「いつもなの? あなたも大変だね」などと、まずは子どもの言い分を聞いてあげましょう。すると、子どもは「私がどんなにイヤな気持ちでいたかわかってくれた」と感じて、親を信頼する気持ちが高まります。そこで、「でも、たたくのはなしだよ」と言えば、子どもも素直な気持ちで受け入れることができます。
また、たとえば、子どもが「今日は疲れた。宿題やりたくない」と言ったとき、「何言ってるの。どんどんやらなきゃダメでしょ」「わかってるよ。うるさい」「なんだ、その言い方は! さぼってないでさっさとやりなさい」「あ~、ますますやる気なくなった」「そんな怠けもんでどうする!」などとなってはいけません。
そうではなく、まず「大変だね」と共感してあげれば、「そうだよ。授業が6時間目まであって、そのあと部活やって、帰ったら宿題だよ」「あんたも大変だね」「あ~、疲れた」「お疲れさん。中学生も大変だ」「ほんとだよ。なんとかしてほしいよ」という和やかな展開になりえます。子どもは、自分の大変さを親にわかってもらえたことで、多少なりとも気持ちが軽くなります。そうすれば、しばらくして自分からやり始めるかもしれません。
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