焦るマイクロソフト、ノキア併呑で得るもの 社員や工場が重荷。減損リスクも

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社員13万人の巨大企業

一方でマイクロソフトは二つの重荷を背負うことになる。一つは71億8000万ドル(買収額と特許料の合計)という額に見合った収益を上げられるかどうか、という課題。マイクロソフトは過去にもアクアンティブの買収案件でのれん代約62億ドルを12年4~6月決算で減損処理している。ノキアの案件も将来の利益圧迫要因になるかもしれない。

新たに加わる3万2000人の従業員、工場などをどのように取り扱うかも課題となる。6月末時点のマイクロソフトの社員数は9万9000人。単純合算で13万1000人の巨大企業になる。あるアナリストは「工場はEMS(電子機器製造サービス)へ売るにしても、労働者の力が強いフィンランド本社の社員を切るのは容易ではない。しかも優秀な技術者はすでにヒューレット・パッカードなどに流出しており、虫食い状態になっている」と指摘する。

日本マイクロソフトの元幹部は「スマホのような端末を今から強化しても遅い。むしろ、これからは端末の価値は下がり、データセンターなどクラウド側の価値が上がる。同じ買うのであればインフラのほうを買うべきだった」と今回のM&Aに首をかしげる。「ありえるとすれば、エロップ氏をマイクロソフトに取り込み、次期CEOに据える、ということ。それくらいしか買収の理由は見当たらない」。

エロップ氏は08年から10年までマイクロソフトに幹部として勤務。オフィスソフト製品の責任者を務めており、来日もしている。その当時を知る日本マイクロソフト社員は「非常に人望のある人。彼が次期CEOの候補というのは多くの人が納得していると思う」と言う。

バルマー氏は8月23日に「12カ月以内にCEOを退任する」と公表。ビル・ゲイツ会長らと後任CEO選びを進めていくことを表明している。ノキア買収を終えるのは、来年1~3月期の予定であり、それから数カ月後にはバルマー氏はCEO職から外れることになる。自社製ハードとクラウド事業に力を置く「デバイス&サービス・カンパニー」への脱皮を掲げるバルマー氏は、社内昇格よりも、社外でデバイス事業に実績のある人物を招き入れようとしている、とみられている。その意味でも、ノキアで修業を積んだエロップ氏を次期CEO候補として迎え入れることは重要だったのだろう。

かつての携帯電話端末大手は軒並みスマホシフトに失敗し、事業再編に追い込まれた。モトローラはグーグルへ、エリクソンはソニーへ、ノキアはマイクロソフトへ、とそれぞれ端末事業は身売りされた。めぼしい企業で最後に残っているのはカナダのブラックベリーだ。

そのブラックベリーも複数の企業と身売り交渉を進めている。中でも有力候補として指摘されてきたのが11年に業務提携したマイクロソフトだった。

ウィンドウズフォンのシェアを引き上げるためには、徹底的にM&Aを進めていくのかもしれない。

(写真:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年9月14日号

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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