個人投資家は「人工知能」に勝てるのか 株の急落や暴落は逆にチャンスになることも

拡大
縮小

一方、HFTが市場や投資家にもたらすデメリットとして、瞬間風速のような短期のボラティリティ(変動率)の高まりが指摘されています。たとえば、2010年5月6日の米国のフラッシュクラッシュ(わずか数分の間にダウ平均が1000ドル近く下落)、2016年6月24日の英国の国民投票や2016年11月9日の米大統領選の開票状況を受けた日経平均株価・米ドル/円の乱高下が代表的です。こうした瞬間風速のような動きは高度な金融工学やAI・アルゴリズムを活用した取引であるHFTによって一部、増幅されたとの見方が強まっています。

HFTの欠陥で「フラッシュクラッシュ」が起こる?

では、なぜHFTによってフラッシュクラッシュのような動きが一部、増幅されてしまうのでしょうか? HFT自体に欠陥があるからこのようなことが起きてしまうのでしょうか?

その答えはこうです。逆にHFTとしてのシステムがより高度で優秀だからこそ、このような動きがもたらされていると考えられています。わかりやすい事例を挙げて説明していきましょう。

たとえば、数々のHFTが人間の目にも留まらぬ速さで、アスクとオファー/ビッドを提示し続けたとします。仮に何かの原因で市場に大量の売りが出て、さらに下がりそうだと予想されたとします。

そうした場合、HFTとしては、平時、つまりいつもと同じように価格を提示し続けた場合、大量の「売り玉」を引き取らされて、さらにその後、価格が急落するのであれば、大きな損失を抱えてしまいます。そうした場合、HFTのリスク管理として、価格の提示を取りやめ、様子を見る、または今、「抱えている玉」を放出して、リスクを軽減する戦略を実施することが1つの合理的な意思決定になることでしょう。

そうした個々のHFTの合理的なリスク管理が同時的に発動された場合、市場にいったい何が起きるか想像してみてください。平時でHFTが市場に提供していた流動性が一気に縮小します。つまり、提示していた板をさっと引っ込めることで一段と市場の板(コンピュータ画面上に表示される、値段ごとの売買の注文)が薄くなり、その後、市場に出された売り玉によって、市場の価格は急落することになります。

つまり、個々のHFTはリスク管理としては合理的で正しいことをやっている。ただし、ほかのHFTも合理的に同じようなことをやるので結果として「合成の誤謬(ミクロの視点では正しいと考えられることでも、それが合成されたマクロでは、意図しない結果が生じること)」が生じ、マーケットが超短期の間に崩れていったと言うと、イメージが湧きやすいと思います。

次ページ規制を受けても、HFT自体はなくならない
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT