コンサル女子が退職→単身秋田で始めたこと 「隠れた果物王国」の魅力を知ってもらいたい
オリジナルのサイズとラベルにこだわるのには、矢野氏なりの「引き算の美学」がある。
「720mlの大きな酒瓶をテーブルの上に載せると果物とのバランスが悪く、インスタグラムに投稿する写真として雰囲気もそぐわない。それに、日本酒のラベルは主張が強すぎて、飲む人に先入観を与えすぎてしまう。果物と日本酒をどう組み合わせて楽しんでもらうかをストーリーで説明することはあっても、商品の説明が多すぎないように注意している」
初年度は約1000セットを販売。2年目である今年は、県内で13の果物生産者、10の酒蔵と取引件数を増やした。ふるさと納税での活用も始め、販売セット数で昨年比約1.5倍を見込んでいる。
「忙しい毎日の中で、この一杯に癒やされた」
とはいえ、果物生産者と酒造会社にとって、フルートリートでの販売数は多いとは言えない。それでも、東京から来たよそ者である矢野氏に協力するのは、インスタグラムなどSNSを活用したメディア発信力と、首都圏に住む若い女性というこれまで秋田県内からはアクセスしにくいターゲット層へのリーチが期待できるからだ。
インスタグラムには、「ベランダで果物×日本酒の贅沢を楽しんでいる」「忙しい毎日の中で、この一杯に癒された」「心のこもった果物とお酒、作り手の思いを受け止めながらいただきたい」などのコメントが寄せられている。そこには、単なる秋田の“グルメ”としてではなく、果物と日本酒でゆっくりと過ごし、秋田に思いを馳せるという“体験”に価値を見いだしているユーザーの真意が表れている。
ようやくサービスは軌道に乗りつつあるものの、2016年の初年度、矢野氏自身はほぼ無給で働いたという。「マーケットである東京の感覚を忘れないために、秋田に土着しすぎてはいけないという危機感がある。1年間で東京と秋田を往復した費用は100万円をはるかに超える。フットワークと情報発信のためには、時間もお金も惜しまない」(矢野氏)。自らの報酬は削り、情報発信のためのウェブサイト構築費用や交通費に投資をした。
この夏には、フルートリートに次ぐ2つ目の事業のため、新たな資金調達を行った。次なる事業は、宿泊や体験といった「コト消費」事業だ。秋田県内の温泉施設の再生や、首都圏から秋田に足を運んでもらうためのツアー開発にも乗り出す予定だ。また、果物や日本酒以外の、秋田の産品の開発にもかかわっている。たとえば、母親と子どもが一緒に食べることができる食品の開発など、県内事業者と積極的な意見交換を行っている。
矢野氏のゴールは、秋田におカネを落とすこと。「表面的に秋田をもり立てるのではダメ。秋田に住み、秋田をよく知ったうえで、マーケットを意識して引き算していく。東京モノだった私ならそれができる」。事業成長を計る中で、最も大きな課題となるのは人材採用だ。秋田のいいものが「目利き」ができて、それを外に発信できる人材を増やす必要に迫られている。今後、秋田へのUターンを検討している若い人材を積極的に登用する予定だ。
「祖母が果物を送ってくれたときのうれしさをほかの人にも届けたい」。矢野氏の思いは、はたして秋田の果物・日本酒業界の発展につながるだろうか。
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