コンサル女子が退職→単身秋田で始めたこと 「隠れた果物王国」の魅力を知ってもらいたい

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たとえば、通常、やわらかい果物と硬い酒瓶を一緒に箱に入れて発送することは想定されていないため、配送用の箱を作る必要があった。また、ぶどうに限らず果物の生育には時間がかかるため、生産者としては注文数を数カ月前に把握しておきたい。が、ネット通販の場合は、販売開始直前に注文数が急増することがあり、この対応をどうするかという課題もあった。

ぶどう生産者の鈴木氏。10月はシャインマスカットを「フルートリート」で出荷する(筆者撮影)

そんな矢野氏を助けたのは、知人の紹介で知り合った横手市でぶどうを栽培する葡萄屋久兵衛の鈴木靖之氏だ。「ビジネスのことは矢野さんが詳しい、でも、果物のことは私がプロ。ぶどうの生育や果物農家の思いを、ぶどう畑に通ってくる矢野さんに繰り返し教えた。ぶどう以外の果物は、信頼できるほかの果物生産者を紹介した」(鈴木氏)。

フルートリートがこだわった2点

一方、鈴木氏にもフルートリートをサポートする理由があった。「果物生産者が普通のことをやっていたらこの先は難しい。ぶどうをまだ食べてない人にぶどうを届けるには、フルートリートの仕組みは魅力的だった。矢野氏を助けるという感覚はなくて、こちらも必死だった」(鈴木氏)。

秋田の酒造会社もフルートリートの取り組みには注目している。秋田には約40の酒蔵があるが、日本酒の国内出荷量は年々低迷しており、新たな販路の開拓に迫られているからだ。

「造れば売れた時代と違い、今後はいかに秋田県外での消費を活性化させるかがキモ。日本酒をあまり飲まない若い女性の新規開拓はとても重要」と語るのは、秋田県内で創業400年を超える老舗の木村酒造で製造部長を務める佐藤時習氏だ。

「横綱の果物のために横綱の日本酒を提供したい」と語る佐藤氏(筆者撮影)

「シャインマスカットは果物の横綱。それに負けない横綱級の酒で、華やかな香りが特徴のシャインマスカットと相乗効果を生むのはうちの『福小町』しかない。香り高い日本酒を、ワイングラスで果物と一緒に楽しむ。そんな素敵な時間をイメージすると、日本酒を造っているわれわれも楽しくなる」(佐藤氏)

とはいえ、すべての酒造会社がフルートリートに対応してくれるわけではない。扱う日本酒のサイズは300mlで、瓶のラベルもすべてオリジナルのものに張り替えることを条件としているからだ。1年目は浅舞酒造とタッグを組んで発送してきたが、2年目はより果物に合った日本酒を探すため複数の酒蔵と取引をすることに。細かい注文に対応してくれる酒造会社を探すため、地元の酒蔵に詳しい酒販店の協力のもと候補をリストアップし、最後は自ら酒蔵に足を運んで説明をしていった。

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