教育困難大学に「不本意入学」した学生の実態

「授業に出ない」ことを認めた教員の考えは?

また、最近特に目立つようになったのは、起立性調節障害やアスペルガー症候群などに悩んでいる学生だ。「この大学はあまり頑張らなくても卒業できそうだ」と判断して進学してくるケースである。こういった学生たちは、表面上は納得しているように見えても、心の奥底では「不本意入学」の場合も少なくない。

大都市部に所在する大規模・中規模大学の定員抑制策が今後も続けられる場合、ごく少数のトップ大学を除いて、各地の大学で「不本意入学」の学生が増加する可能性が考えられる。浪人してでも志望する大学に入るというモチベーションを精神的にも経済的にも持ち続けられる人はさほど多くなく、不満はあってもあらゆる面で安全な大学進学を考える人がさらに多くなると思うからだ。

各大学にとって、特に「教育困難大学」にとって、これらの学生の「不本意」という思いをいかに変えられるか、いかに学生を引き留められるか、有効なサポート方法は何かを見極めることが大きな課題になっている。

優秀な学生が「不本意入学」した理由

以前、中部地方の公立進学校を出た学生を教えたことがある。大学入試の数カ月前に家庭にトラブルが発生して受験勉強ができなくなり、「不本意入学」せざるをえなかった学生であった。

筆者は新入生にアカデミック・スキルを教える課目を担当していたが、彼にはほとんど新たに教えることがないほどに優秀だった。将来、地歴・公民科の教員になることを志望していた彼は、社会全般に興味があったが、学内でそれについて話せる友人を見つけられていなかった。また、入学当初の初歩的な内容の講義に物足りなさも感じていた。SNSで地元の友人等とつながってはいても、リアルな大学生活への不満は募る一方だった。そのままでは、彼も周囲に埋没する「不本意入学者」のままでいたかもしれないが、彼は動いてくれた。筆者に日頃の不満を語ったのである。

彼の思いを知った筆者は非常勤講師という立場でできうる3つの策を行った。まず、筆者が担当しているクラスに散在する彼のようなタイプの学生同士が顔を合わせる機会を作った。大学の入学当初はクラス指定の必修科目も多く、同じ学部であっても学生間の接点は限られているので、学生同士を引き合わせる、いわば「仲人」をしたのだ。

次に、筆者が信頼している学内の教育学の教授を紹介した。もちろん、事前に彼のことを伝えておいたので、多忙な中、教授は快く彼を迎えてくれ、その後彼が研究室を時々訪れる関係は、卒業まで続いた。筆者はさらに、「積極的に外に向かって行動してほしい。そのために必要であれば、筆者の授業を欠席しても構わない」と伝えた。これには、彼も驚いたようであった。地方の公立進学校で真面目な高校生活を送っていた彼には、授業に出ないという考えはなかったのだ。その後、彼は他大学の評判のよい講義を聴講したり、教育や政治に関する講演会やイベント等に参加するようになった。

卒業時、ゼミの指導教員からは大学院進学を勧められたが、今の教育現場を見たいという意思で、彼は出身地の公立中学校教員になった。彼の「不本意」という思いがどうなったのかはわからないが、少なくとも大学生活の4年間は無駄にはなっていなかったと思う。筆者が行ったことは紹介するのも恥ずかしいほど取るに足らないことだ。だが、「不本意入学者」を中退させずに引き留めるためには、教職員が学生をよく観察したうえで、こうしたちょっとしたお節介をすることが必要なのかもしれない。

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