幼児教育「無償化」より大事なのはその内容だ ヘックマンは無料にせよとは言っていない
不平等の拡大や生産性の伸び悩みの主要原因は、公立学校の欠陥でも大学の学費の高さでもない。幼少期の不利な状況を救済するために設計された現在の改善戦略──職業訓練プログラム、高校の学級定員の削減など──は少なくとも現状では、そして単独では効果的でない。
非認知的スキル(訳注:やる気、忍耐力、協調性といった社会的・情動的スキル)の向上を目的とした思春期における改善策は、幼い頃の逆境によるダメージをある程度は修復できる。だが、思春期の恵まれない子供を対象にしたプログラムは公平性と効率のトレードオフに直面する。
一方、幼少期の恵まれない子供を対象にしたプログラムではそれを避けられる。幼い頃の望ましくない環境からくる不公平な非有利性を軽減することによって、公共の福祉をよりよく促進できる。
持つ者と持たざる者とのあいだの、認知的スキルおよび非認知的スキルの格差は、ごく幼い頃に発生し、年少期の逆境に根源をたどれる部分があり、現在ではそうした環境で育つ子供の割合が増えつつある。子供がどれほどの逆境に置かれているかは世帯所得や両親の学歴といった昔ながらの物差しではなく、子育ての質によって測られる。
ただし、それらの昔ながらの物差しは、子育ての質と相関関係にあるのだ。相関関係を因果関係と混同しないことが重要だ。単に貧困家庭にカネを与えるだけでは、世代間の社会的流動性を促進できない。貴重なのはカネではなく、愛情と子育ての力なのだ。
すなわち、社会政策は適応性のある幼少期を対象にすべきだ。家族の大切さを尊重し、文化的感受性を発揮し、社会の多様性を認識しつつ、子育ての質や幼少期の環境を高めることによって成果が導かれる。つまり、効果的な戦略は、選択肢のある高品質なプログラムの提供を必要としている。
どのようなプログラムが効果的か
幼少期の教育プログラムを実施し、アメリカ社会において恵まれない環境に育つ子供たちの諸問題に取り組むには、さまざまな実際的な政策課題がある。ここでは、いくつかの重要性が高い大きな問題について簡単にふれよう。
1 対象の範囲をどのように決めるべきか?
幼少期の教育プログラムに対する利益が最も大きいのは、親からの十分な教育投資を受けられない貧しい子供だ。貧しさを測るために適切なのは、家庭の貧困度や両親の教育程度とは限らない。
入手可能な証拠は、子育ての質が重要な希少資源だと示唆している。そこで、対象をより正確に定めるために、危険の多い家庭環境を判断する物差しが必要である。
2 どんなプログラムを使うか?
幼少期を対象とするプログラムが最も期待が持てると思われる。アベセダリアンプロジェクトとペリー就学前プロジェクトは大きな成果を示した。家庭訪問で子育てを支援する「看護師・家族パートナーシップ」に関する分析も、同様に示唆に富んでいる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら