貴闘力「ちゃんこ」でなく焼き肉を選んだ本質 至難の飲食店経営で元力士が店舗を順調拡大
相撲界(角界)を引退後、力士が飲食店を始める例は、少なくない。典型的なのは「ちゃんこ料理店」。現役時代から「ちゃんこ」をよく食している関係からだ。たとえば元大関の霧島氏による「霧島」、同じく元大関の増位山氏による「ちゃんこ 増位山」などがある。
飲食店の出店開業者・運営者を支援するサイト「飲食店.COM」「店舗デザイン.COM」を運営するシンクロ・フードが2014年5月に発表した調査によると、飲食店は開業後1年未満で約35%、2年以内に約50%が廃業し、10年後まで残っているのは約1割にすぎない。オーナーの多くは飲食業経験者、中には元店長クラスの人材も少なくない。
元力士としての知名度やイメージを生かす「ちゃんこ店」でもなく、そもそも外食業経験者であっても生き残るのが難しい飲食店経営において、鎌苅氏は一定の成功を収めているといっていい。
鎌苅氏が焼き肉を選んだのは、「力士時代からのお付き合いのおかげ」という。兵庫県出身という地の利を生かして、現役時代から神戸牛を扱う企業と懇意にしていたことから、牛肉の特別な仕入れルートができたそうだ。
ここに店舗展開が可能となった秘密があった。焼き肉店の経営は良い品質の牛肉を、どれだけ安く仕入れられるかが勝負のカギを握る。アメリカ産やオーストラリア産の牛肉よりも国産和牛のうま味は格別。それを大量仕入れできれば、原価も下がる。さらに「焼肉ドラゴ」の場合は、ボリュームたっぷりでリーズナブルという路線を選んだ。
いまや空前の肉ブーム。特に牛肉(ビーフ)の注目度が高く、さまざまなMOOK本、ガイドブックなども発売されている。趣向的には、従来のA5ランクの霜降りが重宝された時代から、ドライエージングビーフ(熟成牛)を経て、今は赤身のビーフをボリュームたっぷりという、いわば「G系ビーフ」と呼ばれるガッツリ系へとシフトし、主流となっている。「焼肉ドラゴ」も、まさにそこを狙った。
ドラゴが好調な理由
といっても肉の品ぞろえだけが成功要因ではない。ドラゴが好調な理由はほかにも大きく3つあると筆者は考えている。
まず、「ストーリー」がしっかりあるということがある。相撲=がっつり、がっつり=肉、肉=牛肉、牛肉=神戸、神戸=貴闘力というイメージである。本人とブランドが一体化することでストーリー(必然性)が生まれ、一般顧客に支持される。
八丁堀店はそれほどでもなかったが、いわゆるメーキング的な方法で、お店を紹介していくマーケティング手法にも力を入れている。新店を立ち上げる際、数カ月前からブログやFacebookなどに経過を報告し続け、オープンを迎える。逆に、肉ブームに便乗して肉料理店をオープンする程度では、売り上げを確保するのは難しい世の中だ。
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