テレビドラマは枠からハミ出す戦いが必要だ どうすればドラマは復権できるのか

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ネットはまだまだ出しっぱなし感が強いかな。若い人たちが結果も含め、責任を持って作るという地位を預からないと、クリエイターは育たない。いくら学校で勉強しても、教育現場で原理原則を習い、脚本を書いたところで、実際にそれがオンエアされるところまでいかないとわからないことがたくさんある。そういう意味で、真にOJTをやっているのはテレビだけになっちゃっているんです。ただ、これが根本的な問題なんだけど、当のテレビがそこを意識しているかっていうと、生き残るやつは生き残るよね、くらいにしか考えていないかもしれない。そういうやり方ではツイッターと同じで、吐き出す文化しか生まれない。じっくり考えて作る文化は生まれてこないんです」

いかに枠をハミ出すか?

──昔のテレビは作り手を意識的に育ててきた?

どうでしょうか。ただテレビっていうのは今までに見たことないものを見せるというのが作り手の矜持で、それが受け継がれていたような気がするんです。僕もそのへんの最後の薫陶を受けている。どこも得ていない情報、誰もが知らない世界。スクープの価値がまだあった。テレビドラマもそうです。誰もまだ取り上げてないテーマ、見たこともないキャスティング。誰も手をつけていないものを見つけることにこそ価値があるということを教えられ、育ってきている。何百何千と企画が出て行くなかで、誰も見たことがないものを提示する。それこそが枠を超えることであると。

同じようなテーマを扱うにしても、料理の仕方を変えて、どこか新しさを装っていくという。誰かの真似でなく、自分なりの切り口を探し求める。それが結局はオンリーワンになっていくということを意識していた。でもそんなことは容易にできるわけではない。それを鍛えていくのが現場だったわけです。

自分がチーフディレクターになったとき、枠を預けられたときに何をやるか、ということを虎視眈々と考えて、つねにナイフを忍ばせている。チャンスが来たら、『これが面白い』と言うためには勉強もしなくちゃいけない。それこそ過去にどんなドラマが作られていたかとか。

──まさに温故知新ですね。既存の枠を超えるためには、まず、過去から学ぶと。

ただ、やっぱりテレビっていうのは、自由で、野蛮な時代のほうが面白くて、形が定まってできあがっちゃったものっていうのは、どこか面白くない。昔の大河ドラマとかを見ていると、「シナリオ論」や「演出論」がそこまで確立されていないままに探りながらやっていたから面白いものができた。だからもう少し野性的でなきゃいけないというか、理性的であるよりも野性的で、やんちゃで粗暴で、っていうもののほうが圧倒的に面白い。

今のドラマを見ても、倉本聰さんの『やすらぎの郷』なんか相当暴れていますよね。どこかやんちゃで、枠からはみ出ようとするのがクリエイターの性だと思うんですが、どうもそれを歓迎しない人たちが多くなってきた。それを逆手にとって、いかにうまく枠からハミ出して戦うか。そこに尽きるような気がします。

桧山 珠美 フリーライター

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ひやま たまみ / Hiyama Tamami

フリーライター。月刊GALAC「今月のダラクシー賞」、日刊ゲンダイ「これだけは言わせてくれ」、読売新聞「アンテナ」などでテレビコラムを連載。

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