台湾新首相は低人気の蔡英文総統を救えるか 同性婚、脱原発、年金・・・立ち塞がる9つの難題
それでも、頼清徳氏は深い思索を経た後、誰もが反対したにもかかわらず、政治のより深層にかかわる道を選んだ。誰もが高い評価を与えていた台南市長という快適な世界から、中央政界のジャングルに踏み込むことになった。そんな彼の行く手を阻む厳しい課題は、以下のような9つがある。
挑戦1 労働基準法をどう処理するか
林全氏は在任中、蔡英文総統の選挙公約である労働者の完全週休2日制を実現するため、労働基準法の改正を推進した。その結果、改正後に企業の人件費が増加すると同時に、一部のビジネスパーソンにとっては残業代が減ったと、労使双方から不満が集まった。頼清徳氏は今年7月、「労働基準法は再改正すべきだ」とはっきりと表明、「これはわれわれの責任だ」と強調した。だが、具体的にどう改正するのかは、いまだはっきり説明していない。
頼清徳氏は再改正に意欲を見せるが、そのハードルの高さを甘く見るべきではない。民進党の一部の委員(議員)らは、残業時間を3カ月に1度清算する「労働時間貯蓄制度」の方式で改正することを提案している。しかし、労働者団体はすでにこれを拒絶しており、強行するなら選挙で民進党に投票しないと宣言している。頼清徳氏は企業と労働者のどちらの立場に立つことになるのか。あるいは、労使双方を満足させられる解答があるのか。労働政策で最初の試練を迎えそうだ。
「婚姻の平等を支持する」と断言したが
挑戦2 年金改革を甘く見るべきではない
公務員の年金改革は、すでに立法院(国会)で可決・成立している。だが、軍人と労働者の年金改革は、まだ法改正を終えていない。総統府国家年金改革委員会は、立法院の次の会期で軍人の年金改革案を審議するよう希望しており、これに反対する軍人による街頭デモが激しくなることが予想される。それに伴いこれまでの徴兵制から募兵制への移行のスピードにも影響を与えそうだ。また労働者保険年金も破産の危機に直面している。頼清徳氏としては、こうした難題に向き合わざるをえない。
公的機関でこれまで働いてきた公務員が今回の改革の対象でもあり、行政部門では士気の低下が見られる。頼清徳氏は、年金改革によって亀裂を生じた官僚システムとの間の関係をいち早く修復しなければ、行政部門をきちんと動かすことができなくなる。
挑戦3 同性婚の法制化が選挙の票を左右
蔡英文氏は総統選挙の前に、「私は蔡英文。婚姻の平等を支持する」と高らかにアピールした。しかも、日本の最高裁判所に相当する大法官会議はアジアで初めて、「民法が同性の結婚を保障していないことは、憲法が保障する婚姻の自由と性別平等権に違反しており、もし2年内に行政部門が法改正をしなければ、自動的に同性婚が認められる」との憲法判断を示した。こうして、婚姻の平等は、蔡英文政権にとって回避できない議題となったのだ。
民進党関係者によれば、立法院は下半期(7~12月)に政府予算を処理しなければならないが、2018年2月に法案審議が始まると婚姻平等の問題が再び討論されることになる。となれば、同性婚賛成派は再び与党・民進党に対して立法化を迫ることになるだろう、と見ている。そのとき、頼清徳氏は同性婚反対派と賛成派の双方からの圧力に直面することになる。価値観と選挙の票のどちらを取るか選択を迫られたとき、政治的な知恵が試されることになる。