独身を幸せにする「エモい」という感情の正体

インスタ映えに熱狂する人の心理とは?

人間としての根源的な欲求には、承認欲求と達成欲求があります。この欲求は、仕事のみならず家族生活でも感じられるものです。

ただ、独身のソロには子どもも配偶者もいません。既婚者が得る「家族によってもたらされる日常的な幸せ」は物理的に感じようがないのです。同時に、根強い結婚規範によって、ソロは「結婚していない状態の自分」に欠落感を感じがちです。そうした欠落感を払拭するための代償行為が「承認」や「達成」を満足させる消費行動につながっているのです。

消費行動において、「承認」と「達成」を得るとは具体的にどういうことでしょうか。

インスタ女子は「エモ消費」の代表格

わかりやすい例は、インスタ映えに没頭する人たちです。主に女性が多いようですが、彼女たちは、写真共有SNSインスタ上に、カラフルでおしゃれな加工をした写真やかわいらしい料理や場所を映した写真を投稿することに夢中です。レストランやカフェなどで運ばれてきた料理を、食べる前にさまざまな角度から写真を撮っている人たちの光景を、ご覧になった方も多いのではないかと思います。

インスタ映えに夢中になる行動に対し、中には行き過ぎた承認欲求だと非難する声もありますが、あれは決して承認されたいためだけの行動ではありません。インスタに写真をあげるためには、そこに至るまでの情報収集や移動、行列に並ぶ時間も含めた相当の手間がかかっています。だからこそ、その一枚の写真はその人にとって、大きな達成感を得られる、ある意味「作品」でもあり、自己肯定感のアウトプットでもあるのです。これは「エモ消費」のひとつの形です。

実業家の堀江貴文さんは「感情のシェアが幸せにつながる」と言っていますが、感情をシェアするということは、同じ感情を持つ人たちとのコミュニティ帰属意識の確認でもあると思います。だからこそ、文字でくどくど説明しない、1枚の写真でわかる人にはわかるということでいい。それは自分たちの周りのリアルなつながりである必要もありません。同じ場所へ行った見ず知らずの人たちと、その瞬間だけ同じ「エモい」を共有できればそれでいいのです。今後は2度と接点がないかもしれない刹那的な関係でも、それがゆるいコミュニティの形となるのです。

これは、米国の社会学者グラノベッターの言う「弱い紐帯の強さ」ともつながる話です。このように、精神的な充足を目的として、おカネや時間の両方を消費する行動こそが「エモ消費」なのです。

インスタ女子だけではなく、アイドルにカネを注ぎ込むオタクたちの行動も同様に「エモ消費」そのものです。同じCDを何枚も購入するなど、興味ない人たちから見たら理解できない行為でしょう。しかし、そういった行動こそがアイドルたちからの「承認」を得る手段だし、そうやって応援している自分自身を「達成」感で満たしてくれるものなのです。したがって、消費している本人たちは幸せなのです。

エモ消費においては、モノやコトという消費の対象が先にあるのではなく、自己肯定や精神的充足というモチベーションが先に動因として存在し、そのツールとしてモノやコトが機能していくことになります。消費によって「承認」と「達成」という欲求を満たし、その結果生まれる「束縛のない緩いコミュニティ」は、彼らのソロで生きる力をサポートしてくれます。「エモ消費」とは彼らの幸せに直結する行動でもあり、幸せのマイレージを貯める行動でもあるのです。

いずれにせよ、人口の半分が独身者となるソロ社会において、このような精神価値による「エモ消費」をどう喚起していけるか、彼らの「承認」と「達成」と「刹那のコミュニティ意識」をどういう形で刺激できるかが今後の大きなカギとなるでしょう。

もちろん、こうした「エモ消費」は独身者に限られたものではありません。夫婦のみ世帯でも共働きが増え、夫婦別財布意識が高まれば、消費をする対象や動機は個人単位で異なります。

そういった意味では、現在の家計調査のような世帯単位での指標は意味を失うでしょう。全流通の決裁体系から現金決裁が消滅し、すべての決裁を個人のスマホで行える未来がくれば、個人化する消費の正確な全貌が明らかになると期待します。

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 最新の週刊東洋経済
  • 「米国会社四季報」で読み解くアメリカ優良企業
  • ブックス・レビュー
  • 日本野球の今そこにある危機
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
-

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

ログインしてコメントを書く(400文字以内)
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
台湾と中国のデジタルは違う<br>唐鳳・台湾デジタル大臣に聞く

台湾を代表する天才プログラマーの名声を得て15歳で起業した唐鳳氏。「デジタル民主主義」「開かれた政府」を体現した38歳の若き大臣が、これまでの実績、日本や中国との比較、IT教育やITの未来などについて胸の内を語りました。