人間の成長は「属する集団」次第という真実

子どもの学力向上や英語習得に必要なこと

2018年度から、日本の小学校で英語の義務教育化が段階的にスタートする。そこで、ここまで述べてきた「自己像の設定」という観点から、子どもが英語を身に付けるのに最適な環境を考えてみたい。

英語学習に最適の環境とは

ポーランドから親とともにアメリカ・ミズーリ州の片田舎に移り住んだ7歳半の男の子ジョゼフを研究した心理学者がいる。学校が始まった8月の終わりの時点で、彼の英語力は2歳程度だった。学校は、彼に通訳をつけることも、英語を話せない子どもたち向けの特別クラスを編成することもしなかった。

彼は同年代の子どもたちと同じ2年生のクラスに入れられた。ポーランド語を話せる子どもは1人もいなかったし、先生もポーランド語を話せなかった。彼への指導はすべて英語だった。時に「泳ぐか、沈むか」と呼ばれる方法だ。

しばらくジョゼフは「泳ごう」ともしていないように見えた。新しい学校に転入して数カ月、彼は「沈んだ」ままで、教室内でもしゃべることはほとんどなかった。けれども自分の身の回りで起こっていることへの注意は決して怠らず、先生が何を言っているのか、それを知る手掛かりをほかの子どもたちを観察することで得ようとした。

たとえば、先生がスペリングドリルを取り出すよう指示したとすると、ジョゼフは周りを見回し、ほかの子どもたちがスペリングドリルを取り出しているのを見て自分も同じものを取り出した。

彼の進歩は驚くほど速かった。11月の終わりには、校庭へ向かう間に次のような文章を話していた。「トニー、遊ばしてくれなければ、もう車、あげることしないよ」。完璧ではないが、言いたいことはトニーに伝わった。

アメリカに来てから11カ月、8歳半になったジョゼフの英語の使い方と理解力は、いまだポーランド訛(なま)りは消えないものの、生粋のアメリカ人の6~7歳に相当すると評価された。その1年後には同年代の子どもたちに追いつき、訛りもわずかに残る程度となった。

『子育ての大誤解――重要なのは親じゃない』(早川書房)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします(本書は上・下2巻の文庫版です)

心理学者が次にジョゼフを調査したのは、彼が14歳になってからのことだった。この時点では彼の発音は生粋のアメリカ人である彼の仲間たちとも区別がつかなかった。それでも彼は相変わらず家ではポーランド語を話していた。彼の学校での成績にも同じような傾向が見られた。低学年では読書に苦労した点が見られたが、5年生以降、彼は平均かその少し上の成績を残している。

ジョゼフの通う学校には、ジョゼフが自分はその一員だと思えるようなポーランド系アメリカ人の集団もなければ、英語を話せない子どもたちの集団もなかった。彼は特殊な存在ではあったが、1人では集団は形成できない。そのため彼は自分自身を単なる〈子ども〉、〈2年生男子〉としてカテゴリー化し、その社会的カテゴリーでふさわしいとされる規範を取り入れた。英語を話すこともその規範の一つだった。

英語を話さないことや、英語を流暢に話さないことを許すような規範をもつ子どもたちの集団をつくってしまうと、子どもは英語を覚えられない。彼らを担当する教師が、文法上正しく訛りのない英語を話すだけでは不十分なのだ。

キャリア・教育の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • おとなたちには、わからない
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • コロナ後を生き抜く
  • 今見るべきネット配信番組
トレンドライブラリーAD
人気の動画
ついに上場廃止、大塚家具の末路
ついに上場廃止、大塚家具の末路
日本初、「工場を持たない」EVメーカー誕生の衝撃
日本初、「工場を持たない」EVメーカー誕生の衝撃
日本人に多い「腸を汚すフルーツの食べ方」4大NG
日本人に多い「腸を汚すフルーツの食べ方」4大NG
男性も入れる?新業態『ワークマン女子』の中身
男性も入れる?新業態『ワークマン女子』の中身
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
2050年の中国<br>世界の覇者か、落日の老大国か

米国と並ぶ超大国を目指す中国。しかし中国の少子高齢化はこれまでの想定を超える速さで進行しています。日本は激変する超大国とどう付き合うべきか。エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ、大前研一ら世界の賢人10人が中国の将来を大胆予測。

東洋経済education×ICT