スタグフレーションをコントロールできない
8月の月例経済報告は、「デフレ状況ではなくなりつつある」とした。しかし、実際には、円安によって、エネルギー関係費が増加し、そのために消費者物価指数の上昇率が高まっているだけのことだ。
電気料金の値上がりはとくに深刻だ。現在の制度では、燃料費が増加すると料金に自動的に転嫁されるような仕組みになっているため、円安による輸入燃料の値上がりは、自動的に電気料金に転嫁される。
電気はあらゆる経済活動で用いられるので、その価格上昇は生活と産業活動を圧迫する。産業活動の中では製造業が電気を比較的大量に使用するため、大きな影響を受ける。
また、円安にもかかわらず、貿易赤字は拡大している。7月の貿易赤字は、ついに1兆円を突破した。現在の状況が続くと、所得収支の黒字で貿易赤字とサービス収支赤字をカバーできず、経常収支が赤字になる可能性を否定できなくなった。
他方、輸出数量はここ数カ月増加はしているものの、これまでの落ち込みの反動にすぎない。7月の輸出数量指数は、やっと12年9月の値に戻った程度だ。自動車の輸出が好調というが、7月の輸出台数の対前年比を見ると、自動車全体で0.2%にすぎず、乗用車はマイナス0.7%だ。欧州経済は持ち直す可能性があるが、中国経済の行方は、依然として混沌としている。Jカーブ効果でこれから輸出が増えるという見方には賛同できない(本連載の第20回を参照)。
これまでは、消費税の駆け込み需要で住宅建設が増加し、1月の大型補正予算による公共事業の増加があった。こうした需要はいずれフェードアウトする。「設備投資に動意が見られる」という指摘があるが、4~6月期のGDP統計では、実質設備投資の減少が依然として続いていることが明らかになった。
ドイツ連邦銀行が8月の月報で、アベノミクスについて批判的な分析を公表したと報道された。「一時的に成長を押し上げるが、中期的には景気への効果はつかの間のものであることがはっきりする」というものだ。13年にはGDP成長率を1.25%押し上げるが、15年にはマイナスの効果になるとした。
こうして、日本経済は、経済活動が伸びない一方で物価が上昇するというスタグフレーションに突入しつつある。しかも、この状況は、日本政府の経済政策でコントロールできない状態だ。なぜなら、日本経済の命運を決める為替レートが、ヘッジファンドなどの円安投機で動く状態になっているからだ。
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