「福知山線事故」歴代社長はなぜ無罪だったか 起訴議決で強制起訴、最高裁が無罪判決

✎ 1〜 ✎ 17 ✎ 18 ✎ 19 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

尼崎事故は周知のとおり、制限速度を大きく超過して曲線に進入した快速列車が脱線・転覆し、運転士1人を含む107人が死亡し多数の乗客(判決では493人)が負傷した事案である。

裁判で指定弁護士は、尼崎駅構内の工事に付帯して事故現場の曲線半径がきつくなり(304m)、制限速度も厳しくなったところ、列車増発のなか運転士が定時運転を確保するために事故現場の手前まで制限時速に近い速度で走行する可能性が高まっており、運転士が適切な制動をせずに事故現場の曲線に進入した場合には脱線転覆の可能性が高まっていたとした。

そして、JR西日本では曲線半径450m未満の箇所にATS(自動列車停止装置・特に速度照査機能付きのもの)を整備しており、他社の曲線でも過去に速度超過による脱線転覆事故が複数発生していたことを挙げ、歴代社長にはATSを現場に整備するように指示すべき業務上の注意義務があったのにそれを怠り、列車を減速させることができずに事故を発生させたとした。

歴代社長の危険に対する認識については、「運転士がひとたび大幅な速度超過をすれば脱線転覆事故が発生する」という程度の危険性の認識があれば「結果を予見する可能性」があり、過失責任を問えると主張した。

最高裁はなぜ過失責任を否定したか

これに対し、最高裁は、歴代社長らの過失責任を否定した。最高裁は、尼崎事故以前の法令は曲線へのATS整備を義務づけていなかったことを指摘し、実務上も、尼崎事故以前に曲線にATSを自主的に整備していた鉄道事業者はJRで3社、民鉄113社中13社にとどまり、設置基準はまちまちであったことなどを理由に、事故当時曲線へのATS設置は一般的ではなかったと指摘した。

さらに、尼崎事故後に定められた規則では転覆危険率により尼崎事故現場の曲線はATS設置の対象になるものの、事故以前には他社でも転覆危険率による危険性の判別は行われておらず、JR西日本管内には半径300m以下の曲線は2000カ所以上存在しており珍しいものではなかったこと、尼崎事故の現場における転覆の危険性がほかの箇所に比べて高いという認識が社内で共有されたことはなかったことを指摘した。

次ページ「刑事責任」と「社会的責任」
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事