「世界のホンダ」が復活するのは容易ではない 失われた革新力を取り戻す厳しい挑戦
ロイターが入手した講演原稿によると、同氏は、米国で20年以上にわたってホンダに勤めた研究者も学生のように扱われている、と述べた。同講演には約500人が集まり、その中にはホンダの経営陣もいたという。
バークマン氏は講演で「われわれは『年季奉公人』になることを望まない」とし、「ホンダは自分の会社でもある、というのが私の姿勢だ。社内、特にR&D部門での多様性の増大がわれわれの進む道だ」と語った。
同氏はロイターとのインタビューで、米国にいる多くの有能な技術者および研究者が、軽視されたことへの不満を理由にホンダを退職しているとも明かした。「日本の上司たちは管理が強過ぎるだけでなく、妥当と考えられるリスクすら取ろうとしない。(米国にいる)多くの同僚はそう感じていた」と同氏は話す。
バークマン氏および会合への参加者2人によると、シニアマネジャーを含む参加者の多くが同氏の講演に喝采を送ったという。ただその後、同氏はHRAの社長職を降ろされ、他の子会社に配転された。
「スピーチとは何の関係もないかもしれないが、私はそうは思わない。飼い主の手を少しかんでしまった、ということだろう」。バークマン氏は33年間務めてきた同社を退社することに決めたという。同件についてホンダはコメントを避けている。
松本・本田技術研社長も、ホンダの技術・研究部門のスタッフには多様性が欠けていることを認める。同氏によると、ホンダは人材の移動を促すために、米国やタイ、中国などに技術センターを再配置し、日本の研究所に対するサテライトセンターのように機能させている。「純血主義はうまくいかない。それが共通認識だ」と話す。
社内改革へ精鋭部隊
自動車業界は今、未体験の課題に直面している。人工知能技術の進歩や自動運転車の登場で、メーカーは自動車の設計、生産方法の再考を余儀なくさせられているからだ。松本・本田技術研社長は自動運転車やコネクテッドカー(インターネットに常時つながる車)などが主流となる「新しい時代には全く新しいアプローチが必要だ」と強調する。
すでにホンダでは、新たな動きが出始めている。技術部門の上級職を東京本社から現場に移し、同部門の自主性を高めることなどの対策だ。
コネクテッド電気自動車の開発加速に向け、ホンダは外部との協力を進めている。日立製作所と<6501.T>はEVなど電動車両向けのモーターの開発・生産、米ゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>とは米国で燃料電池システムの生産をそれぞれ行うことで合意した。また、グーグルと自動運転技術のテストでの車両供給を巡って協議している。
こうした改革を進める中心的な存在は、八郷社長が正式な社内組織として後押しするエンジニア、マネジャー、計画担当者で構成される小規模なグループだ。