「世界のホンダ」が復活するのは容易ではない 失われた革新力を取り戻す厳しい挑戦

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縮小

伊東氏の意向を受け、新型シビックには安価な材料が使われた。車体の全長も45ミリメートル、全幅も25ミリ縮小し、前輪軸と後輪軸の距離であるホイールベースも30ミリ短くなった。プロジェクト開始直後の構想より車体は小さくなり、コストも切り詰められた。

「(新型シビックの)計画は開始直後から、実質ベースで費用を削減することが目的になった」と、このモデルチェンジに関わった技術者の1人は振り返る。

さらに、米国の元エンジニア幹部は当時のホンダについてこう語る。「自己防御と独善的なメンタリティーにはまり込み、それが製品にも浸透していった。何でも削減、削減、削減で、ホンダ車の品位を落としめていった」。

コスト重視の圧力下で開発され、11年に販売開始となった2012年モデルのシビックは、市場から批判の集中砲火を浴びることになる。

影響力のある米消費者情報誌コンシューマー・リポーツは自動車評価ランキングを開始した1993年以来初めて、シビックを推奨リストから除外。新型モデルは内装のクオリティーが低く、走行にむらがあると苦言を呈した。

その後、シビックの設計は変更され、12年モデルと交代した16年モデルのシビックセダンは16年の北米カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

本田技術研の松本社長はこのエピソードについて、株主価値のために開発部門の創造性を犠牲にしてはならないという教訓になったと話す。

「多少、暴走する。それは暴走に見えるかもしれないけれど、実は将来に対する種まきだ」と話す松本氏は、コストや効率性だけで技術開発の価値を評価する流れには批判的だ。「種をまいても100%当たることはない。それを理解して技術開発に取り組まないと、(ホンダは)普通のつまらない会社がただ大きくなっただけの存在になってしまう」。

「会社の将来を考えたことだった」

一方で、この間の経営判断を支持する声もある。ある元上級幹部は、コスト削減は世界的な景気減速を背景にした決断だったと正当性を強調した。浅沼なつの広報部長は、株主価値を重視した旧経営陣の判断は、その時点で「会社の将来を考えたことだった」と指摘した。

IHSマークイット・オートモーティブ(上海)のアジア太平洋担当チーフ、ジェームズ・チャオ氏によると、福井・伊東時代のホンダはサスペンションやトランスミッションなどの分野を中心に技術全般で革新性がなくなったが、財務的には十分に順調だったため、問題が表面化しなかった。

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