スタンフォードで痛感、教員はラクじゃない 米国トップスクールの教員はどんな「教育」をしているか?(前編)

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学生たちへの対応:説明責任という苦労

これにはびっくりした。どうやら残りの問題をその場で解いてみて、わからないところがあったら、その場で聞こうともくろんでいたようだ。普段彼らが勉強を教わっているチューター(家庭教師)(※)と同様に使ってしまおうということか。

※アメリカの大学では、しばしば学生がほかの学生(特に大学院生など)をチューターとして雇うことがあるようだ。しばしば大学が公式プログラムでチューターを斡旋したりしている。スタンフォードの場合、Center for Teaching and Learning というところがやっている。

問題を解こうとする姿勢は買うけれど、公平性の観点からこの学生たちだけを手取り足取り教えることはできない。かといって、現実的に考えて全員の家庭教師をする時間はない。なにせこのクラスは100人以上いる大クラスだった。こういった場合にはお引き取り願わなければならない。

もちろんアカウンタビリティが求められるため、学生にはきちんと説明する。

「オフィスアワーの時間は限られているので、この授業では具体的な質問をあらかじめ考えてから来るのがルールです。オフィスアワーに来て、その場でスタディグループをやるのは禁止としています」

というか、初回に配ったシラバスにもそう書いておいたのに……。今思えば、そもそもシラバスにそう書いたのは、以前同じクラスを教えていた同僚に勧められてのことだった。よくあることなのかもしれない。後で聞いてみると、似たような経験をした同僚は何人もいた。

それから、交渉して成績を上げてもらおうと長時間粘ったりする学生もいる。こちらの採点ミスなら当然訂正するけれども、残念ながら正当な理由がない場合も多いので、そんなときには断固として拒否しなければいけない(僕はNoと言えない日本人なので、本当に嫌なのだけど……)。

幸いなことに、今のところ僕には経験がないけれど、成績交渉に来た学生に対応するうちに、泣き出されたりした友人の話も聞いたことがある。

こういったコストが非常に高いので、うちの学部では共通のルールを公開していて(※)、どういう場合に成績の変更が認められるかや、成績変更のためにはどういう手続が必要かなどがあらかじめ細かく指定されている。

※ここにはわざわざ「テストの訂正を求めるときには答案の全体を提出すること。採点のやり直しは答案全体に関して行うので、点数が下がる可能性がある」なんていう脅し文句みたいなことが書いてある。

それはともかく、オフィスアワーだけでは時間が足りなかったり、学生の予定が合わなかったりということもよくあって、その場合は個別にアポイントメントを取って対応する(どのくらい対応するかは各教員の裁量によるところが大きい)。

ちなみに大学院の指導学生には、彼らの研究のアドバイスをするため定期的に会ったりしていて、実はこちらのほうが教育活動の中での比重は大きいのだが、それは授業とは直接関係ないところで行われるので、またの機会に。

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