建設業界 厳しい事業環境のなか、不動産事業の下支え効果に着目 《スタンダード&プアーズの業界展望》
天野待知子
今年に入って、新興のマンションデベロッパーや不動産賃貸会社が、開発期間の長期化など業界環境の悪化を受けて資金繰りが難航し、倒産に追い込まれる例が増えている。民間の住宅投資に急ブレーキをかけた改正建築基準法の影響の余波が続くなかで、米住宅市場の崩壊に伴い世界的に景気減速感が急速に広がり、資材価格高騰による建築費上昇も加わって、日本の不動産・住宅市場で買い控えムードが強まったためである。建設会社でも、7月に東証・大証1部上場で、北陸地区トップクラスのゼネコン真柄建設が民事再生法の適用を申請、8月には宮崎県最大手の総合建設業者、志多組が民事再生法の適用を申請している。
新興・中堅の建設会社、不動産会社だけでなく、スタンダード&プアーズが格付けを付与している大手建設会社の収益性も悪化している。激しい受注競争が続くなかで、このまま建築費が上昇したり、高止まりが続けば、価格転嫁に時間がかかり工事資金収支が悪化するため、大手建設会社のキャッシュフロー創出力への影響が考えられる。また不動産投資市場を取り巻く事業・金融環境が大幅に冷え込んでいるため、健全な事業基盤を持つ事業者でも事業展開や資金調達が制約されうる状況だ。不動産会社の業績悪化が続くと、施工業者である建設会社の資金回収リスクの増加につながる可能性もある。
2008年3月期決算
スタンダード&プアーズが格付けを付与している日本の建設会社4社の2008年3月期決算は、受注競争の激化と鋼材をはじめとする資材費や外注労務費などの建築費高騰を受けて、工事採算の顕著な悪化を示した。鹿島、大成建設、大林組の大手ゼネコン3社はそろって2けたの連結営業減益を記録するとともに、オペレーティング・キャッシュフローが赤字となった。売上高に計上した工事の採算を示す単体の完成工事総利益(粗利益)率は3社とも2007年3月期の7−8%から5−6%台と極めて低い水準まで悪化し、同業界の供給過剰状態を示している。
官公庁向けの大型土木工事を得意とする西松建設は2期連続で最終赤字となった。工事資金収支の資金繰りの厳しさを示す立替工事高比率は、国内建設市場での公共投資の縮小を背景に、2004年3月期までの20%以下の水準から2008年3月期には30%超に達した。スタンダード&プアーズは7月25日付けで、西松建設の長期会社格付けのアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」へ変更した。足元で同社の建設事業の完成工事総利益率は上向く見通しだが、官公庁工事の受注競争の激化や資材費・人件費の増加を考慮すると改善度合いは当面制約されるとみられるため、今後1年程度は収益力やキャッシュフロー創出力の低迷が続くとの見方に基づいた。
今後、大手ゼネコン3社についても、受注高減少やコスト増が深刻化・長期化するなどして建設事業のキャッシュフロー創出力がさらに低下した場合や、営業収支改善の遅れが鮮明となった場合には、格下げを検討する。一方、採算重視の受注方針を堅持することなどにより収益体質が強化され、収益性とキャッシュフロー創出力の安定性が高まれば、アウトルックや格付けの上方修正を検討するが現時点でその可能性は限定的である。