ミサイル発射の北朝鮮に圧力だけではダメだ 時間をかけて交渉、環境づくりに努めるべき

拡大
縮小

それならば、北朝鮮の核問題をどう扱うべきか、という難問がわれわれに課せられる。国際社会の北朝鮮に対する戦略は、核兵器開発の第2段階の状況に適応するものになっている。今こそ、これを第3段階に合うように転換すべきだろう。北朝鮮の開発状況は、外から中断させられるレベルのものではなく、安定的に管理すべきレベルにある。これは誰もが認めている。したがって、韓国はむろん、日本や中国、ロシアも、北朝鮮に対する軍事的オプションは考えられない。となると制裁と圧力を強化する第2段階の戦略では解決できない。新たなアプローチを採るべきだ。

結局、北朝鮮による核開発の第3段階に対応するには、北朝鮮自らが「核は不必要だ」と考えるような環境をつくるべきだ。時間はかかる。が、最も急ぐべきは、北朝鮮の核を安定的に管理することだ。そして時間をかけて、北朝鮮住民を利用しながら、金正恩政権が変化を選ぶようにする方法が必要だろう。北朝鮮の国民はカネのうまみを少しずつ覚え始めた。市場を許容し、個人企業も許容しながら、経済に活気を与えたためだ。

現時点で、制裁と圧力を強化して全面封鎖するようになれば、住民からの反発を誘発させることなく、以前の厳しい、苦難の行軍の時期にあっという間に逆戻りしてしまう。なぜなら「金正恩はきちんとやろうとしているのに、米国が圧力をかけるため我慢せざるをえない」という論理が北朝鮮国内で横行してしまうからだ。さらに北朝鮮内にはまだ資本の力が形成されていない。権力に対して組織的な反発をリードできるだけの勢力が存在しない。となると、2016年5月の朝鮮労働党・第7回党大会以降、北朝鮮が提案した平和協定案に対して具体的な実効策を用意することが、日米韓3カ国の協調の下、交渉を推進できるとみる。

制裁を段階的に解除していく手も

北朝鮮に対し、グランドバーゲンのような交渉は、簡単に妥結しづらい。時間がかかればかかるほど、設計をきちんとすべきである。交渉は起伏が激しくなろう。その過程で北朝鮮は有利な高地を占領するため、核による挑発を行うかもしれない。交渉の雰囲気が冷却する期間もありうる。しかし、究極的な目標は、北朝鮮の核問題の解決だ。交渉テーブルで、金正恩委員長率いる現政権が交渉を続けるという安心感を与えるようにし、交渉の過程で対北制裁を段階別に解除していく必要もあるだろう。

北朝鮮の市場はのどが渇いた状態であり、交渉がうまく進む過程で急に水を与えた状態になる。市場は急速度で拡張するだろうし、資本の勢力化現象を後押しできる。交渉の過程で制裁を少しずつ解除していけば、北朝鮮政権にとっては資本の流入を警戒することになる。だからこそ、朝鮮半島の不安定化を抑制し、時間をかけて問題を解決する戦略を行うべきだ。

金正恩委員長は、分別のない、若い指導者ではない。挑戦的な若き指導者であることを認める”ふり”をすべきだ。警戒心を解くため、北朝鮮の運命は北朝鮮住民が自ら選択できるような環境づくりを行うことで、根本的な問題解決を模索するといった、戦略の転換が必要である。北朝鮮経済の対外依存度を高めれば、制裁の効果はより高まる。そうすれば内部からの変化の要求も高まるだろう。

董 龍昇 韓国オリエンタルリンク代表

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ドン ヨンスン / Yong-sueng, Dong

1963年生まれ。韓国延世大学卒。2015年までサムスン経済研究所北朝鮮研究チーム長、経済安保チーム長等を経る。韓国・統一省諮問委員、韓国大統領政策諮問委員も務めた、韓国を代表する北朝鮮問題専門家。
 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT