トランプの「新北朝鮮戦略」は日本の救世主だ バノン更迭は北朝鮮への最後通告として有効

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米国は日本も韓国も同盟国であり、戦争になれば、もちろん勇敢な米兵たちは戦う。だが、米国という国土は犠牲にしない。そういう日本にとって危うい現実が待ち構えていることは無視できない。それを防いでくれているのがトランプ大統領とトランプ政権の存在だと判断していい。

そのトランプ政権の対北朝鮮戦略と相いれない考え方と持論によって、ホワイトハウス内部を混乱させているのはほかでもない、バノン氏である。

バノン氏の存在価値は薄らいでいる

バノン氏が更迭されたのは、18日だった。米メディアによれば、7日にトランプ大統領に辞意表明をし、14日に正式辞任の手はずだった。1年前のその日、バノン氏は大統領選さなかのトランプ陣営に加わった。いわば記念すべき日であり、区切りをつけるにはちょうどいいと思われた。

ところが、12日にバージニア州シャーロッツビルで人種問題をめぐる衝突事件が起き、その対応に追われるなどで、辞任の発表が延期されたという説もある。

シャーロッツビル事件は、白人至上主義者と反対者の衝突で死傷者が出たものだが、その対応をめぐるトランプ大統領の中途半端な発言に批判が続出した。この際、トランプ政権としては、白人至上主義者を自任するバノンを生贄にして、つまり更迭して、事態の打開を図ろうとしたのではないかという説もある。

筆者は両説にくみしない。トランプ大統領にとって最大かつ喫緊の課題は、北朝鮮問題だ。連邦国家の米国にとって、国家安全保障は連邦政府の最優先のテーマである。オバマ前大統領が命懸けの引き継ぎでトランプ次期大統領に申し送ったのが、北朝鮮問題だった。

ところが、バノン氏はトランプ大統領のその真意をひっくり返すような発言をした。16日付のリベラル系メディアのインタビューに、語ったあらましはこうだ。もし米朝間で戦争が起これば、韓国の1000万人の生命が戦火にさらされる。北朝鮮との軍事的解決は不可能だ。中国との経済戦争に最終的に勝たなければ、中国に覇権を握られる。北朝鮮よりそっちが優先される。北朝鮮問題は余興にすぎない。忘れていい。

その発言にトランプ大統領は激怒した。北朝鮮に対する軍事的対応は不可能という、まるで金正恩氏の味方をするかのような無節操なバノン発言は許せない。トランプ大統領がバノン氏をクビにしたのは、北朝鮮に対する軍事力行使の可能性はゼロではないことを示す、北朝鮮に対するトランプ大統領による、いわば超ド級の最後通告だと筆者は見ている。

バノン氏はトランプ氏が大統領選に勝利した立役者であり、「米国第一」の看板政策の推進者だった。そのブレーンを失うことは、トランプ政権の今後の運営に支障を来すのではないかと危惧する見方もある。

だが、これからのトランプ政権にとって必要なのは、共和党主流を含む幅広い保守主義であり、バノン氏のような超保守主義ではない。バノン氏の戦略は、もはや時代遅れになりつつあり、バノン氏の存在価値は薄らいでいるとみていい。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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