暴走する資本主義 ロバート・B・ライシュ著/雨宮寛・今井章子訳 ~資本主義に飲み込まれる民主主義の復活を説く
ニューエコノミーが利便性をもたらす反面、労働、家族、コミュニティなどの生活にかかわる領域に深刻な打撃をもたらす様相を余すことなく描いた前著『勝者の代償』(原書2001年)の続編である。ブッシュ政権時代その傾向はますます進行し、今や原著のタイトルでもある「超資本主義(Supercapitalism) という新しい資本主義社会の段階に到達したことを強調している。超資本主義とは、近代自由社会の両輪であった民主主義と資本主義の結合(ライシュは民主主義的資本主義と呼ぶ)が崩れ、資本主義(市場原理主義とほぼ同義)が民主主義を飲み込んでしまう社会になっているという。
そして、格差拡大や生活の不安定さによってわれわれを苦しめるこの超資本主義が形成されたのは、企業が悪いのでも、政府が悪いのでもない。普通に生活しているわれわれ自身の内側にあることを強調する。誰でも安価でよいものを欲しがる。市場は安価でよいものを作って売ろうと、生産や流通を効率化し、労働賃金を下げ雇用を不安定にする。われわれが安くて品質のよいものを買えて喜ぶ裏側には低賃金で働く人々がいる。ショッピングセンターやネットで安くてよい商品を入手すればするほど、地元の個人商店が潰れることを考えよと、本書は説く。
つまり、われわれの消費行動が、生活者、労働者としての自分たち自身の首を絞めている最大の要因なのだ。私が感服するのはこの想像力である。他人を非難するより先に、われわれ自身の内側にある二面性(消費者、投資家であると同時に、労働者、生活者)に気づくことなのだ。
現在の資本主義の姿は、グローバル化、科学技術の進歩によって資本主義の持つ消費者や投資家の利益が最大限に保証される社会になったということにほかならない。日本語タイトルの「暴走」というよりも、むしろ資本主義の完成型なのである。
そしてライシュは、資本主義は資本主義がもたらした問題を解決できないと説く。ロビイスト中心の現在の政治は市場の下僕となり、企業のCSRは市場の枠内での貢献しかできず、社会を変化させる力にならないと説く。寄付や社会活動は、ビル・ゲイツのように個人のお金と力で行われるべきと主張する。
消費者としてではなく個人の内側の「労働者であり生活者である」側面を引き出して、政治の場で資本主義に対抗する力をつける。これが民主主義を復活させる道だと指摘する。民主党のオバマが当選し、ライシュがアドバイザーとしての力を発揮できれば、超資本主義を脱する道筋が見えてくるかもしれない。
Robert B. Reich
カリフォルニア大学バークレー校教授。1946年生まれ。ハーバード大学教授、ブランダイス大学教授、クリントン政権で労働長官を経る。『アメリカン・プロスペクト』の共同創立者兼編集者。2008年5月ウォールストリート・ジャーナルで「最も影響力のある経営思想家20人」の1人に選ばれる。
東洋経済新報社 2100円 379ページ
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