乙武洋匡が見たガザ、そこに生きる人の苦悩 選べない境遇の違いが大きな隔たりとなる
ガザの旧市街。子どもの頃に読んだ絵本の世界に迷い込んでしまったかのような街並み。しばらく歩いていると、どこか厳かな雰囲気が感じられる一角に出くわした。白い石でできた門には、なぜか十字架が刻まれている。イスラム社会のガザで、なぜ十字架が――。不思議に思って門の外から中の様子をうかがってみると、そこには中庭のようなスペースがあり、右側にはキリスト教の教会が、左手にはイスラム教のモスクが建てられていた。
世界中でキリスト教とイスラム教が衝突しているが…
中庭にいた男性が私を見つけて、手招きする。その誘いに従ってついていくと、男性は思いがけず教会の中へと案内してくれた。奥ではちょうど礼拝が行われているようで、静かに祈りを捧げる人々の姿が見える。ムスリムの女性たちはヒジャブと呼ばれる布をかぶるのが通例だが、キリストを信仰するアラブ人女性たちは、一様にレースのような布を頭にかぶっていたのが印象的だった。
教会を出て中庭に戻ると、案内をしてくれた男性が誇らしげに語ってくれた。
「世界中でキリスト教とイスラム教が衝突しているけれど、ガザでは互いの宗教が尊重し合って共存してるんだ。この場所こそが、ガザの平和の象徴だよ」
しばらく歩くと、スーク(市場)にたどり着いたようで、あちこちから売り子の威勢のいい声が聞こえてくる。ただ、それらの声には甲高い少年の声も混じっているのがわかる。ガザでは彼らも貴重な戦力なのか、市場のあちこちで物を売る少年たちが走り回っている。
コマネズミのようによく動く少年たちの後を追うようにしてスークの奥へと進んでいくと、うず高く積まれたスパイスの独特の香りと、プラムやマンゴーといったフルーツの甘い香りが鼻をくすぐる。人の良さそうなフルーツ売りの男性が、イチジクをひとつつかんで、私の口へと近づけてくる。一口かじると、圧倒的な甘さが口に広がる。これまで食べたどのイチジクよりも、味が濃い。
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