スパイダーマンが描く勧善懲悪ではない世界 大抜擢された36歳のワッツ監督に聞く

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――ピーターの学生生活でも、いろいろなプレッシャーがあります。今の10代にとって、ヒーローになること、あるいは夢を実現することはますます難しくなっています。そんな10代にどのようなメッセージを送りたい?

「いくら失敗してもかまわない。そのことを、いちばんこの映画を通して伝えたかった。スパイダーマンは何度もミスをするからね。今の若者は最初から何でもしっかりできなければいけないというプレッシャーが強すぎる。まだ若いのに、フェアではないよね。失敗することで、学ぶきっかけになり、成熟して責任を持てる大人になるのに。僕自身、学生時代も、仕事でも何度も失敗を重ねてきたけれど、それでもあきらめなかったというのが、いちばん大事なことだったと思う」

――今回の作品ならではのアクションの見どころは?

スパイダーマン役のトム・ホランドは元ダンサー。身体能力が高く、スタントマンをほぼ使わずに演じきった©Marvel Studios 2017. ©2017 CTMG. All Rights Reserved.

「トニー・スタークから与えられるハイテクスーツは、機能がつまったベルトや笛だの声だのもついていて、それで何ができるかを考えるだけでも面白かった。コミックの原作でも、脚本家やイラストレーターが好きなように、クレイジーな装備を考えていたからね。でもスパイダーマンのすごさは、パワースーツを脱いだらただの人間というアイアンマンとは違い、パワースーツを着なくても、ある程度の能力、スーパーパワーを備えているところ。

主演のトム・ホランドはダンサーとしての経験があり、加えてスパイダーマンを演じるためのトレーニングも受け、身体能力が飛び抜けているから、スタントマンをほぼ使わずに演じきった。高層ビルの間を飛び回るだけではなくて、ニューヨーク郊外の低層階で戦ったり、蜘蛛の糸を使えないような狭い場所に忍び込んだり。ハイテクスーツの機能も、場面によるスパイダーマンの臨機応変さ、それを巧みにこなすトムの動きも見どころだ」

タフな撮影を可能にしたのは

――ピーター・パーカーの友人はアジア系、恋人はアフリカ系というふうに、高校の生徒たちの民族的な背景も多様性があります。それは、実社会を反映しているから?

「ピーターが住んでいる舞台のクイーンズ、あるいはニューヨークの高校に行けば、だいたいこういう感じ。現実の感覚に合わせている」

――撮影でいちばん大変だったことは何ですか?

「今回のロケは80日間を費やし、その準備や編集などにそれ以上の時間がかかった。このような長丁場は経験したことがなくて、それがいちばん大変だったことだね。エネルギーや情熱を最初から最後までずっと保たなければいけないし、いつも研ぎ澄まされた状態を維持していないといけない。

もちろん、1日だって休暇を取ることができない。それを可能にしたのは、とにかく眠る時間を削らないこと。夜、寝る前に煮詰まったら、早くベッドに行くこと。それが乗り越えられた秘訣だった」

斉藤 真紀子 ライター

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さいとう まきこ / Makiko Saito

日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集スタッフ、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリーに。ウェブマガジン「キューバ倶楽部」編集長。共著に『お客さまはぬいぐるみ 夢を届けるウナギトラベル物語』

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