東芝、3つの難題によって高まる経営リスク ウエスタンデジタルとの係争で時間を空費

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 7月29日、東芝が進める半導体メモリー事業の売却を巡り、米ウエスタンデジタルが米裁判所に差し止めを求めた仮処分に関する28日(米国時間)の審問で、WD側が求めていた差し止め判断は示されなかった。神奈川県川崎市で2月撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)

[東京 29日 ロイター] - 東芝<6502.T>が進める半導体メモリー事業の売却を巡り、米ウエスタンデジタル(WD)<WDC.O>が米裁判所に差し止めを求めた仮処分に関する28日(米国時間)の審問で、WD側が求めていた差し止め判断は示されなかった。東芝にとって、売却手続きが直ちに止まる最悪の事態は回避されたが、WDとの係争は続き、法的リスクを抱えた状況に変化はない。結果として貴重な時間を浪費している構図が浮かび上がっている。

東芝は、1)今後も続くWDとの係争、2)売却に伴う各国競争法上の審査、3)原発損失をめぐる監査法人との協議──という3つの難題を抱えており、同社の再建に向けた経営リスクは、一段と高まってきた。

<経営再建、17年度が時限>

米国での原子力事業で巨額損失を抱えた東芝は、2016年度で5800億円の債務超過に陥る見通しで、その解消に向けメモリー事業の売却を進めている。17年度中に売却が間に合わなければ、2年連続で債務超過に転落する見込みで、その場合は上場廃止となる。

上場維持を至上命令として、稼ぎ頭のメモリー事業売却に転じた同社は、今年2月ごろから入札を通じた売却手続きを本格化。だが、その売却手続きは難航を極めた。

東芝は6月21日、子会社「東芝メモリ」の売却で、産業革新機構、日本政策投資銀行、米投資ファンドのベインキャピタルに韓国半導体大手SKハイニックス<000660.KS>が加わる「日米韓」の企業連合を優先交渉先に選定したと発表。6月末の最終契約を目指していたが、いまだ合意には至っていない。

<リスク1:WDとの法廷闘争>

最終合意を阻む最大の要因が、三重県四日市市でのメモリー生産で協業するWDとの法廷闘争だ。

東芝の長年の合弁パートナーだった米サンディスク社を昨年5月に買収したWDは、東芝がサンディスクと結んだ合弁契約を根拠に一方的な売却に反対。提訴に踏み切った。

カリフォルニア州での仮処分手続きとは別に、WHは今年5月に国際商業会議所(ICC、本部パリ)の国際仲裁裁判所に差し止めを申し立てた。

東芝はWD側の主張に反論。東京地裁に6月、売却の妨害行為を止めるよう仮処分を申し立てるなど、両社は全面的な対立に突入している。

カリフォルニア州の裁判所は今回、売却完了の2週間前に東芝はWDに事前通知するよう命じた。WDが求めていた売却差し止めの判断は出ておらず、東芝側は29日(日本時間)に「早期にメモリー事業売却の最終契約を目指す」とする声明を出した。今回の局面では、東芝は主張が認められたと受け止めている。

ただ、秋にはICCでの仲裁審が本格的に始まる見通しで、東芝には試練が続く。スズキ<6502.T>や三菱重工業<7011.T>といった日本の大企業が絡んだICCを舞台とした過去の係争案件では、仲裁判断が出るまでに3、4年を要している。WDとの係争では今年度中に最終的な仲裁判断が出るかどうか極めて不透明だ。

係争が決着しないままの状態では、今年度中にメモリー事業の売却を完了したとしても、仲裁裁判所がWDの主張を認め、東芝メモリ株式の移転は無効との判断が出るリスクが残ってしまう。革新機構関係者は「東芝とWDとの係争が決着しないと物事が進まない」と指摘している。

<リスク2:各国競争法審査の期間>

予見可能性が得られないWDとの係争を懸念して、SKハイニックスが加わる日米韓連合ではなく、WDが入った企業連合を選ぶべきだとの意見が、東芝中枢に近い関係者から聞かれる。「法的なリスクが最も少ないところを選ぶべきだ」と同関係者は強調する。

WDは、東芝が実施した入札手続きには加わらない形で、法廷闘争を抱えたまま、東芝側とメモリー事業買収に向け交渉してきた。

米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と連携し、革新機構、政投銀を引き込んたうえで買収を狙ってきた。ただ、半導体部門を中心にWDが加わる連合を売却先とする選択について、東芝社内の一部の勢力の抵抗感は強烈で、東芝内で方針がまとまるかどうかは不透明だ。

SKハイニックス、WD両社ともフラッシュメモリー事業を手掛けており、東芝がどちらを選ぶとしても、各国競争法上の審査が今年度中に間に合うかどうかは予断を許さない。

キヤノン<7751.T>が昨年春、東芝の医療機器事業の買収で合意し、各国の競争法審査を経て売却手続きが完了するまで約9カ月を要した。キヤノンはこの買収以前は医療機器事業はほとんど手掛けていなかったにもかかわらず、中国での審査が長期化した。

今回のメモリー売却でも、中国での審査が長期化するとの観測が根強い。東芝は5月中に最終契約に持ち込み、一定の余裕を持たせた上で各国競争法審査に臨む狙いだったが、すでに契約締結が2カ月以上も想定からずれ込んでいる。

もし、競争法審査が来年3月末までに完了しなかった場合、2年連続の債務超過をどのように回避するのか。東芝の周辺から、メモリー事業売却による債務超過回避という案以外の具体的な「プランB」の検討は聞こえてこない。

<リスク3:監査法人との調整>

さらなる難題は、監査法人PwCあらたとの協議だ。東芝は17年3月期の有価証券報告書の提出について法定期限の6月末には間に合わず、8月10日に延期している。

朝日新聞は今月13日、「PwCあらたが監査意見を表明しない見通しを関係者に伝えた」と報道。当日、東芝は報道を否定しているが、関係者によると、米原発事業での巨額損失の認識時期をめぐって、監査法人との調整が難航しているもようだ。

東芝株は上場廃止の恐れがある「監理銘柄」に指定されている。監査法人から決算の適正意見が得られなければ、上場廃止のリスクは一段と高まりそうだ。

上場廃止が現実味を増せば、メモリー事業を売却する根拠も乏しくなる。その場合、メモリー事業売却という東芝の経営再建のメインシナリオの見直しが、俎上に上る可能性も否定できない、という思惑が浮上する展開もありそうだ。

(浜田健太郎 編集:田巻一彦)

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