社会心理学者の山岸俊男さんのご著書で『安心社会から信頼社会へ――日本型システムの行方』(中央公論新社)という本があるのですが。「安心社会」とは何かというと、田舎の家が鍵をかけていなくても誰も盗人はいなかったという世界観。もし、問題を起こした人がいれば、その人は村八分で徹底的に排除されるという、暗黙の了解があった。
会社に入るということも、これまでは「安心社会」を体現したものでした。一度入社して、会社に出勤さえしていれば、放っておいても給料や地位が上がっていくことが当たり前だった。それが、バブル崩壊、リーマンショックによってどんどん会社が潰れ、これまで従業員に対して約束していたことが守れる状況ではなくなりました。今の世代の人たちは、「会社に入ること=安心」ではないと気づいている。共通の前提というものが機能しなくなって、契約が重要になってきた。
「心理的安全性」が成果につながる
――契約といっても、おカネでどうにかするというものではないですよね。
そうです。文書で一筆交わすというわけでもありません。人と人の、感情的な契約です。最近では、グローバル企業でも、働いている人が社内で気兼ねなく発言できたり、本来の自分を安心して出せるという「心理的安全性」という考え方が重視されてきています。
私も、人事が果たすべき役割として「障害の排除」という概念が重要と考えていまして、仕事をするうえで障害になる不安や迷いをできるだけ取り除いて、メンバーの「心理的安全性」が高まるほど、仕事も頑張れるし貢献度も上がる。
――曽山さんのフェイスブックの投稿を見ていると、社員の方との会食の写真がとても多いことに気づきます。やはり直接のコミュニケーションを重視しているのでしょうか。
直接対話したから信頼関係ができるかといったら、そんなに甘くないと思ってます。逆に、この人は信頼できると受け手が思っていれば、究極まったくしゃべらなくても成り立つ。ただ、そこに行き着くまでは、一緒に仕事をしたとか、直接対話したということが大事になるのは当然ですよね。
社員との直接対話が大切ということは、役員の間でもコンセンサスが取れています。サイバーエージェントには取締役が8人いますけど、私だけでなく全員が社員5〜6人と、週2回ランチ週2回飲みというペースでやっています。1人当たり月80人くらいで、重複している分も含めて単純に計算すると、取締役全員で年間8000人くらいの社員と直接対話の機会を持っています。社員に「経営が近い」と実感してもらうことは、感情的契約を結ぶうえで、やはりすごく強い。
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