日本人の「短い睡眠」が危険領域に入ってきた 価値観やライフスタイルを変える必要がある

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知識集約型の社会では、労働時間と付加価値の関連性が低く、短時間で極めて大きな成果を得られる可能性が高い。一方、労働集約型の社会では、付加価値と労働時間はほぼ比例している。つまり長時間労働しなければ、売り上げを拡大することができないのだ。

労働集約的な産業構造を残したまま、労働時間だけを無理に減らしてしまうと、今度は生産量が減少するという事態に陥る可能性がある。日本社会は、労働集約的な産業構造が色濃く残っており、この部分を改革しなければ、時間短縮には限界がある。これは現場の問題ではなく、経営そのものの問題といってよいだろう。

厚生労働省がまとめた労働経済白書でも、日本の生産性の低さは付加価値要因が大きいと結論付けている。要するに儲かるビジネスにシフトしなければ、残業からは解放されないのである。

時間を確保することが経済成長につながる

もうひとつは、ライフスタイル全般の問題である。通勤時間が長く、仕事と会社の往復で1日が終わってしまうと、他のことに時間を割く余裕がなくなる。これは余暇における支出が少なくなることを意味しており、最終的には消費の抑制につながってしまう。

日本が途上国の時代であれば、工業製品の生産にすべての時間を費やすことで、相応の付加価値を得ることができたかもしれない。しかし日本はすでに成熟国であり、豊かな消費を維持することこそが成長の源泉となっている。生活時間に余裕がないことは経済全般にマイナスの影響をもたらすと考えるべきだろう。

人口の集約化をもっと進め、労働時間に加えて、通勤時間の圧縮についても、強く意識する必要がある。先ほどのOECDの調査では、家族との時間に加えて、友人と過ごす時間も短いとの結果が出ている。残業が減り、通勤時間も短くなれば、友人との時間を確保できるようになるだろう。当然のことながら、ここには新しい消費が発生する余地があるので、経済にとっても悪い話ではない。重要なのは、単純に残業を減らすことではなく、わたしたちのライフスタイル全般を見直すことである。

(文:加谷珪一)

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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