プロ野球交流戦「廃止論」が毎年浮上する事情 観客動員増でも「おいしくない」球団もある

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球場を赤の他人から借りている北海道日本ハムファイターズ、東京ヤクルトスワローズ、読売ジャイアンツ(巨人)のうち、日本ハムとヤクルトの場合は、観客動員数の恩恵がチケットとグッズの販売収入増にとどまるという点で共通している。

その日本ハムは、楽天同様、交流戦における観客動員のパフォーマンスが悪い。楽天と同じく、対戦相手のセリーグ球団が首都圏以西に集中していて、ファンが北海道まで応援に来るのが大変だからだろう。6月7日の広島戦を観戦したが、カープファンの出没率は、仙台と同様、首都圏以西の球場に比べて低い印象を持った。

12球団で唯一、巨人の特殊な立場とは

そして巨人である。巨人の場合は日本ハムやヤクルトとはかなり事情が異なる。巨人の本拠地・東京ドームは「株式会社東京ドーム」が運営。巨人とも読売新聞社からも離れた経営主体だ。したがって、飲食収入や看板広告料はすべて東京ドームのものになる。

それならば、巨人にはチケット収入やグッズ収入が増える形で恩恵があるのか。実は、それも「ない」のだ。

というのも、巨人は12球団中唯一、球団経営を行っていない球団だからだ。球団は「選手のマネジメント」のみを行い、球団経営は全て読売新聞本社事業局で行っている。だから、シーズン中の全試合の全チケットを読売新聞本社が一括で買い取ってしまう。全試合の放映権となると、今度は日本テレビが一括購入という形だ。

実際、東京ドーム開催の巨人戦のチケットを見てみると、一目瞭然だ。主催者欄に書かれているのは、読売新聞と日本テレビのみ。そこに球団の名はない。

したがって、巨人の場合は、観客動員数が増えようが減ろうが、懐が潤うこともなければ痛むこともない。巨人は交流戦の平均動員数が、リーグ戦よりも1割近く多い。それで潤うのは球団ではなく本社ということになるのだが、実はここにも少々ナゾの部分がある。

日頃、東京ドームの巨人戦のチケットを買い慣れている人なら、疑問が浮かぶはずだ。交流戦で1割も動員数が伸びるほど、リーグ戦のチケットが普段売れ残っているのか、と。

筆者の近著『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

東京ドームの巨人戦のチケットは正規のルートで買おうとしてもなかなか買えない。年間シートは全体の座席数の2~3割でしかないようだが、一般シートの場合は読売新聞販売店に渡っている分が相当数あるもようだ。

その中に、有料で渡っている分、無料で渡っている分がそれぞれどのくらいあるのかも不明なら、観客動員で伸びているのが無料で来た客なのか、有料販売分なのかもよくわからない。

今後、毎年現れる交流戦廃止論がどのような経緯をたどっていくのかは現時点ではわからない。が、球団や両リーグの間で議論の俎上に載る可能性はある。

いずれにしても巨人の場合、少なくとも球団は観客動員数の多寡とは無縁で蚊帳の外にあるともいえる。そのことを考えれば、巨人やその周辺から交流戦廃止論が湧いてくるのは、大いにありうる話だと思う。

だが、もしも交流戦による観客動員増などで、経営に恩恵があるはずの球団まで廃止論に同調するようなことがあれば、合理的な球団経営の観点からは大きな疑問を持たざるをえないのだ。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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