創業93年、滅菌メーカー「一直線経営」の裏側 この世に菌がある限り、技術革新し続ける

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こうした経営を下支えしてきたのが、独自の人事制度にある。一般的なメーカーでは、技術系社員と営業系社員は別に採用し、人事交流が少ないところも多い。一方、ウドノ医機の場合は、両部門間で随時、交流がある。これによって、営業部門は顧客からの要望を的確に技術部門に伝えることができ、技術部門は顧客からの声を把握したうえで製品を作ることができる。さらに、技術系部門の中でも、配管系、電気系、製缶系など分野間で1年に1度異動があるのだ。

というのも、大型の滅菌装置ともなれば1台が1億円以上する高価なものだ。新しく設置する際にミスが起きると大損害になりかねない。さらに1度設置したら最低でも10年程度は使用するため、その後のメンテナンスが必須となる。ここで社員1人が川上から川下まで、複数の系統を理解していれば、少人数でも複数の職務をこなすことができ、経費節減ができるうえ顧客満足度も高まる。

こうして1人がさまざまな経験値を身に付けていくうえでは、社員の定着率が高いことが必要になるため、社員の懇親は欠かせない。毎年夏には、工場でビアガーデンを催し、レクリエーションを図る。工場のすぐ裏手には多摩川の支流である北浅川が流れており、川風がなんとも気持ちよい。

3代目の直子は、伝統守りつつ外部人材で「ウミ出し」

2010年には文雄が代表取締役会長に退き、3代目社長に就いたのは長女の直子だ。翌10月には文雄は代表権も返上し、今は直子がすべての舵取りを任されている。社長に就任してからというもの、直子は自らすべての取引先を回り、信頼関係をつないできた。

同族経営を続けていくうえでは、外部から優秀な人材を入れ、社内に適度な緊張感を醸し出すこともいとわない。2008年8月には、売上計上方法を納入時点から検収時点に変更したことで大幅な減収となり、前期損益を修正してウミ出ししたことも重なって大きな赤字を計上することになった。この赤字の計上は、外部から招聘した役員が断行した。

3年前に若手社員の労災事故が発生するなど、さらなる苦難にも見舞われたが、社員や関係者からの支援で乗り切った。「私が頼りないから周りが助けてくれる」とは直子の弁だが、自分の弱さをさらけ出せることは強さの裏返しでもある。

滅菌装置の今後は、決して順風満帆とはいえない。国民医療費が40兆円の大台を突破し、抑制方向にならざるをえないいま、医療機関は個別に滅菌装置を所有せず、アウトソーシングする流れが進んでいる。したがって、医療用のみならず、研究開発や食品業界のニーズに対応した装置を強化していく必要がある。

ただ、この世から菌がなくならないかぎり、ウドノ医機は技術革新により存在意義を示し続けていくことだろう。創業100年を迎える7年後には、AI(人口知能)が滅菌装置を動かすのも当たり前になっているかもしれない。

車 克成 帝国データバンク 東京西支店記者

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くるま かつしげ / Katsushige Kuruma

1990年3月早稲田大学政治経済学部卒。金融機関勤務後、1996年8月帝国データバンク入社。本社調査部、東京支社情報部などを経て2012年4月から東京西支店記者。倒産だけでなく、地域活性化や不動産、フランチャイズビジネス、投資詐欺などの経済事件にも強い。

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