日本とEUのEPAは、米英への誘い水となるか 優先順位が低かったEPAがまとまったワケ

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EUは日本とのEPAの効果として、(1)日本の大きな市場へのアクセスを改善する、(2)グローバルな通商ルール作りへのEUのリーダーシップを確かなものにする、(3)EUの標準と価値観を守る、(4)保護主義ではなく、協力こそが、世界の変化に取り組む方法であるとの力強いシグナルを送ることになる、とその効果をアピールする。

EUの域外の貿易パートナーとしては、日本は、米国、中国、スイス、ロシア、トルコに次ぐ第6位だが、グローバルな環境の変化で、EUのパートナーとしての日本の重要性は増している。

日本より上位の5カ国のうち、EUはすでにスイスとは2国間のFTA(自由貿易協定)を締結、トルコは工業製品と農産物加工品についてEUの関税同盟に部分参加しており、EU市場への特権的なアクセスを認められている。

ロシア、中国は重要な貿易相手国ながら…

EUとロシアの貿易は、クリミアの併合を含むウクライナ情勢をめぐる対立が続いていることで委縮気味だ。2014年7月末に導入した経済制裁は、ロシアによる「ミンスク合意(ウクライナ東部の紛争解決のためのウクライナ、露、独、仏の4カ国首脳による停戦合意)」の履行が不十分との理由から継続されており、今年6月に2018年1月末までの延長を決めた。

EUと中国には外交的な摩擦の火種はなく、貿易も拡大傾向が続いているが、期待と警戒感が交錯する微妙な関係だ。中国はEUとのFTA交渉を望んでいるとされるが、EU側は、人権の尊重、民主主義、法の支配、市場経済を原則とするEUと「国家資本主義」、「社会主義市場経済」の中国との隔たりが大きく、協議は困難という立場をとる。

EUは中国と投資家保護のための「包括的投資協定」を協議する段階だ。中国が2001年にWTOに加盟してから15年が経過したが、米国や日本と同じく、WTO協定上の地位についても「市場経済国」としての認定は見送った。中国が提唱したアジアインフラ開発投資銀行(AIIB)には、EU加盟国からも英国、ドイツ、フランス、イタリアなどが創設メンバー国として参加、中国と欧州を陸と海でつなぐ「一帯一路」にも期待を寄せるが、手続きの透明性や競争の公平性が確保されるのかなどの警戒感もくすぶる。

これからしばらくの間は、EUと日本は、基本理念を共有するパートナーとして、共同歩調をとる機会は増えそうだ。

ただ、日本にとってもEUにとっても、最も重要なパートナーは、市場の面でも安全保障の面でも、米国である。共同歩調は「米国抜き」を目指すというよりも、「米国の多国間の枠組みへの回帰」を促す期待を帯びたものとなるだろう。残念ながら、英国のEU離脱の撤回も、米国の多国間の枠組みへの回帰も、今は現実味が乏しい。しかし、将来の可能性を残すためにも、日本とEUが「秩序あるグローバル化」の担い手となる姿勢を示す意義は大きい。大枠合意という段階の日本とEUのEPAを、世界の通商ルールのモデルとなるものに完成させなければならない。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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