米地銀破綻、ペイオフ発動の衝撃 対岸の火事にせずに破綻処理策の点検を

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わが国も原則預金カット

これはペイオフをめぐる太平洋対岸の話である。それでは、こちら側、つまり、わが国の事情はどうかといえば、ペイオフは過去、抜かずの刀に終始してきた。しかし、これからは少なくとも制度的にはそうともいえない。 

全国的な金融危機の発生などが想定される際などに、総理大臣が宣言し発動する金融危機対応制度(預金保険法第102条)の場合にのみ、公的資金が投入され、すべての預金は保護される。裏返して言えば、この例外的な措置を除けば、金融破綻処理は預金保険制度による保険金支払方式、資金援助方式の二つしかない。

いずれの場合も、非付保部分の預金にカットの可能性がある。例外的な方式以外は、ペイオフが実施されるのである。

わが国では2003年11月の足利銀行一時国有化以後、金融破綻は発生していない。「金融危機は解消した」ことも間違いない。しかし、あえて言えば、中小金融機関レベルでは経営破綻に発展してもおかしくなかった出来事や状況は潜在的に存在していた。 

その一方、「貯蓄から投資へ」という政府の掛け声を無視するかのように、現実は「投資から貯蓄へ」というマネーの逆流が起きている。06年央以降、全金融機関の総合ベースで定期性預金は増え続けるばかりだ。なかでも、預金保険制度の付保水準(1000万円まで)を超えた1000万円超の定期性預金の増加が著しい。金融危機のさなかに預金者の間で拡大したペイオフ対策が形骸化し、アメリカとは異なって、預金者層にペイオフへの意識が希薄化している実態を示唆しているともいえる。

そうした中で、国内景気は急速に悪化してきた。企業倒産が拡大し、不動産価格の下落ぶりも激しい。今後の景況次第では、金融機関経営に不良債権の増大という大きな負荷がかかりかねない情勢と言っていい。

金融破綻処理は原則ペイオフということで構わないのか。あるいは、わが国では、預金カットを伴う金融破綻処理スキームを有効に機能させることはできるのか。少なくとも、その総点検が行われてしかるべき環境になりつつある。

それを怠ると、いざ、不測の事態が発生しても、抜かずの刀がさびついていて使えず、結局、かつてそうだったように、金融監督当局がリスクを抱え込む形での問題先送り、糊塗策に終始するということにすらなりかねない。

すでに、米国の事態を対岸の火事視するような気楽な段階ではなくなっている。

(浪川 攻 =週刊東洋経済)

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