米地銀破綻、ペイオフ発動の衝撃 対岸の火事にせずに破綻処理策の点検を

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米地銀破綻、ペイオフ発動の衝撃 対岸の火事にせずに破綻処理策の点検を

アメリカを震源として金融・経済危機が世界規模で深刻化している。この状況について、今さら説明するまでもないだろう。率直に言って、流動性危機という金融危機の初期段階は通り越し、危機が真性化してしまった感がある。

このままで典型的なパターンをたどるとすれば、いずれ、デフレーションの圧力が増すことになる。皮肉なことに原油価格などの暴騰によって見えにくいが、その予兆は消費の後退という現象に見え始めているといえる。金融危機はさらに進化しかねない。

今までの状況は、標準的な危機シナリオどおりの展開という言い方もできるだろう。しかし、それでも、個々の出来事を見ていくと、あらためて驚かされることがある。カリフォルニア州の地銀、インディマック・バンコープの破綻処理もその一つである。円換算すると、3兆円規模の預金残高を抱えて経営悪化した同銀行に対し、アメリカの監督当局は預金者負担のペイオフを発動した。いともあっさりと発動したように見える。

アメリカの事情

ペイオフは預金の一部切り捨てを行う金融破綻処理方式である。具体的には、10万ドル以上の預金部分は切り捨て対象となる。もちろん、当該銀行が抱え込んだ債務超過額の穴埋めに活用される。

1990年代の金融危機を経験したわが国では「ペイオフは例外的な破綻処理方式」で、「発動があっても規模の小さい中小金融機関に限られる」というのが大方の理解である。結局、ペイオフ発動はいまだ一度もない。ところが、今回、アメリカでは、相当に大きい規模の金融破綻にペイオフを発動した。日本的な感覚では、これはなかなかショッキングな出来事だった。

今回の危機局面において、アメリカ政府は預金保険制度に加盟していない投資銀行の経営破綻に関して、すべての債権・債務を保護するという荒技を披露している一方で、ペイオフという預金者責任ルールを実行した。これも日本的な発想からすると、天地が逆転したような話だが、有力投資銀行に対する今回の処理スキームは「デリバティブを通じたシステミックリスクを封じ込める必要があった」という結論になる。

アメリカの一般大衆はその事情を理解し、預金切り捨てを納得できるのか。その点で指摘しておきたいのはアメリカという国独特の事情である。

まず、アメリカでは過去にもペイオフ発動を経験した結果として、付保水準を超える預金、つまり、預金保険制度で預金の元利金が保護される10万ドルというレベルを超える大口預金は少ないと言われている。

さらに、アメリカでは地銀のような州法銀行は地盤とする州内に営業権を限られている。その結果として、州際を越えて他州に進出したい地銀にとって、進出目標州の地銀が経営破綻することは数少ない進出のチャンスとなる。

要するに、破綻銀行買収による進出である。その意欲が強いほどに買収金額が高額となり、その買収資金によって破綻銀行のロスが大幅に穴埋めされ、非付保部分(10万ドル超の預金部分)を原資とするロス穴埋めの余地が少なくなる。預金カット率が低くなるわけである。

さらに、アメリカの預金保険機構、FDICは、金融監督当局であると同時に、破綻処理の場面では、裁判上の破産管理人という立場にもなる。つまり、ひとたび、破綻が発生するや、その活動領域は飛躍的に拡大し、迅速な破綻処理が進展するわけである。

これらの事情が重なり合って、アメリカではペイオフ手続きや破綻銀行の承継がかなり円滑に進捗するのだそうだが、はたして、今回はどうなのか。ある意味で、その進捗の度合いはアメリカで発生している金融危機の広がり方、深度を推し量るメルクマールになるかもしれない。他州進出のチャンスにもかかわらず、買い手がなかなか現れないならば、それは地銀クラスにも危機が深刻化してきている傍証になる。 

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