英国王室"人気者"が告白合戦を始めたワケ ダイアナ元王妃没後20周年で変化

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ウィリアム王子、キャサリン妃、ヘンリー王子の3人はメンタルヘルスの向上に尽くすため「ヘッズ・トゥゲザー」というチャリティー団体を立ち上げた。ダイアナさんの行っていた活動の継承を具体化したもので、身近な人の死やいじめの被害など、つらく悲しい体験は心にしまいこまないで言葉に出そうというもの。3人は親などを亡くした子どもを支える会などを頻繁に訪ねている。

メンタルヘルスは、これまでロイヤルが手を付けなかった領域だけに国民には「地味すぎる」「暗すぎる」との意見もあるが、評価は高い。自分の感情を表に出さないのがロイヤルの掟とされてきたが、3人のオープンな姿勢には「王室の人が身近に感じられる」と好意的だ。

発言に釘刺す女王

ただ、エリザベス女王(91)は、ロイヤルは軽々しく自分の感情を国民の前で口にするべきではないと釘を刺す。「度を越さないように」「トーンダウンを」と指導する。チャールズ皇太子(68)は、自分が立ち上げた慈善団体を2人の王子が継がないことに失望を隠しきれない。「プリンスズ・トラスト」は経済的に恵まれない若者たちに起業を促す慈善団体で、おかげでこれまで多くの青年が成功を手にしてきた。しかし、王子たちはダイアナさんの遺志を継ぐと決め、国民がそれを支援するのを感じて黙ってしまった。

現在のイギリスは前代未聞の苦境にある。各地で悲惨なテロ事件が起き、続いて高層住宅で大火災が発生した。総選挙の結果は、地滑り的勝利が予想された与党・保守党は半数を割り、ハングパーラメント(宙ぶらりん)状態。メイ首相の危うい綱渡りが続く。EU離脱交渉はさっそく難局を迎えている。こうした深刻な不安が重なる状況の中で、王室だけは唯一信頼を寄せられる心のよりどころのはずだった。しかしその中で特に人気者3人がそろって「つらい」「悲しい」「王室から離脱したい」と告白合戦を続ける。国民からは「私たちは日々の暮らしから離脱できない」「今こそ王室は揺るぎない安定感で安心を与え、分断された国を一つにまとめて」との声が上がっている。

(フリージャーナリスト・多賀幹子)

※AERA 2017年7月24日号

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