ゾゾ前澤社長、123億円でバスキア買った理由 実は世界随一のコレクター
バスキアの専門家でディーラーのジェフリー・ダイスは、「世界中の多くの人がジャン=ミシェル・バスキアを知っている」と言う。「(作品についた)莫大な金額だけがその理由だ」。
美術館に見過ごされて
ヘロインの過剰摂取により27歳で死亡したニューヨーク生まれのバスキアの作品に対する市場の評価が、今回の落札で変わるかどうかはまだわからない。コレクターはこの機に乗じて所有するバスキア作品を売却しようとするだろうが、近々販売が予定されている彼の名作はごくわずかだ。そして、競売の落札価格が必ずしも作品本来の価値を反映するわけではない。
それでも今回の落札で、バスキアの金銭的な評価における地位がパブロ・ピカソやフランシス・ベーコンと並んで強固になったことは大半の人が認めるところだ。バスキアは一時の流行ではないことが確認され、彼の作品を所蔵していない主要な美術館は、美術史における重要人物を見過ごしたと認めざるをえなくなった。
「私たちが見落とした芸術家だ」と、ニューヨーク近代美術館の絵画・彫刻部のチーフキュレーター、アン・テムキンは言う。同美術館ではバスキアの作品を1つも所蔵していない。「私たちは彼の生前も死後も、彼の絵画をコレクションに加えることをしなかった」。
前澤が落札したことで、バスキアが見過ごされていたことも、いくらかは取り戻されるもしれない。彼は故郷の千葉県に自身のコレクションを公開する美術館を建設する計画だ。
「美しいものを見てもらい、人々と共有したい」と前澤は言い、世界各地の美術館にも所蔵作品を貸与する考えがあると付け加えた。「自分のためだけにとどめておくのはもったいない」。
しかし正確には、前澤が集めたバスキア作品は、公的機関ではなく個人が所有するものだ。主に1981~1983年にバスキアが手掛けた他の傑作も同様だ。1980~1987年という短いキャリアにおいて彼が残した名作の数は多くない。
競売大手クリスティーズの元会長でアートディーラーのブレット・ゴルビーは、その一握りの名作が販売業者ではないわずかなコレクターのもとにあると指摘する。「もしあなたが新たな傑作を待ち望む大物収集家だとしたら、長いこと待たなければならないだろう」。
バスキアの2人の妹は電話での共同インタビューで、兄の作品が歴史に名を残すことは高値がつかなくてもわかっていると述べた。だが、それでも彼の作品の競売価格が最高レベルに達したことは喜ばしいことだ。「彼が亡くなって30年後にこんなことになって、謙虚な気持ちになるし、うれしい」と、リセイン・バスキアは言った。「最高の気分だ」。
2人の妹は今回落札された作品をこれまで目にしたことがなかったため、サザビーズは競売前に2人をニューヨークに招いた。「息をのむようだった」とリセインは振り返る。