東京の銭湯で今、密かに起きている「革命」 銭湯建築家、今井健太郎が語る銭湯の強み

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「敷地の広さでは(スーパー銭湯に)勝てないし、そうなると設備の豊富さで競っても仕方が無い。ではどうしたら差別化できるのか」。直近に手がけた大蔵湯について、今井は語る。

今井健太郎(いまい けんたろう)/建築士(写真:タイムアウト東京)

「いかに付加価値を作れるかを考えるなかで提案したのが、(スーパー銭湯の)逆を行きましょうという案。まっさらで静かな銭湯、大きな浴槽でゆったりとくつろげる空間を目指しましょうと提案してみたら、意外とオーナーさんから共感をいただけて、やりましょうと。昨今の改修といえば、だいたいスーパー銭湯にならってマッサージ風呂とか炭酸泉とか色々と設備的な付加価値を付けることを頑張っていたのですが、これはその逆をやったわけです。

設備が少ないと(浴場内の)音が静かになって、落ち着く。大蔵湯での試みは、個人的にやってみたかったことのひとつであり、ああいった空間に浸るというのは銭湯好きとしての小さな夢でもありました。お客さんからは、何が足りないという意見は特にありません。要するに、お客さんがなんらかの満足を得られれば、それで良いわけです。その満足を得られるものが、ある場合では設備であったり、空間であったり、はたまた番台としゃべることであったりという人もいると思うのです」。

最近では「デザイナーズ銭湯の仕掛人」として取り上げられることもある今井だが、彼の仕事を細かく拾ってみると、オシャレのひと言では片付けられない、銭湯文化への深い愛情と挑戦が見て取れる。

銭湯はオールターゲットでなければならない

「勤めていた設計事務所を出て、独立を目指していたころに、北千住の大黒湯で仙人のような風体の常連客と出会ったことが、銭湯をテーマに活動してみようと思いついたきっかけでした。

それまでも、毎日周囲の銭湯5、6軒をローテーションで通う生活をしていたり、銭湯は好きだったのですが、フィールドワークとして、都内の銭湯をまわり始めました。通常は設計資料というものがあるのですが、銭湯にはそういったものが無かったので、フィールドワークで研究したことを自分で資料として落とし込んでいく作業をしていたわけです」。

自ら作成した間取り図。施設のディテールのスケッチだけでなく、「常連の挨拶が多い」など、利用者の動きにも目を光らせた分析が(写真:タイムアウト東京)

「銭湯の建築というのは、敷地が広いイメージがあるので意外かもしれませんが、なかなか高密度です。浴槽にシャワーやカラン、マッサージチェアなど、非常にたくさんのものが配置されている。

また、例えば商業施設であれば年齢層などのターゲットを絞り込んで、そこにアピールしていくということが通常ですが、銭湯はオールターゲットでなければならない。そういった通常の建築と大きく違う部分について、どうアプローチしていくのか、ということを考えなくてはいけません。

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