東京の銭湯で今、密かに起きている「革命」 銭湯建築家、今井健太郎が語る銭湯の強み
設備面の話をすると、ボイラーの設備自体は昔に比べて非常にコンパクトなものが現在はありますが、その分の敷地を確保できるようになったかと言うと、そうでもない。昔は職人さんが非常に入り組んで圧縮的な、本人にしか分からないような配管を組んでいたのですが、今はメンテナンスがしやすいように配管のスペースを広めにとっているので、スペース的にはプラマイゼロといったところです。
一方で、銭湯の利用者数が減ったことから、カランの数は昔よりも減らして、一人あたりのスペースにゆとりを持たせる、ということは可能になりましたね」。
建築士として初めて銭湯を手がけたのは2001年。当時、今井が業界誌の『1010』で連載していた「夢銭湯」という記事を見た五反野の大平湯のオーナーが、オファーをくれた。それから現在まで、手がけた銭湯の数は15軒。大蔵湯のようなミニマルな空間に仕上げたものもあれば、「夢銭湯」で描いていたユニークなアイデアが盛り込まれたケースもある。それぞれの案件に対して、どう向き合ってきたのか。
リニューアルしたってどうせすぐ飽きられるだろう、と
「地域に合わせたかたちや、色合い、雰囲気、さらにはそのお店の歴史までをもひっくるめて、個性が出るようにということは意識しながら、オーナーさんの意見もミックスした上で提案する、という進め方です。改修依頼のタイミングとしては、老朽化というケースもちろん多いですが、世代代わりで引き継いだオーナーさんから依頼をいただくという場合も多いです」。
提案を固める際には、まず店側と「現状認識」「将来のビジョン」「独自性」の3つの視点を共有し、そこからコンセプトを設定する。
「今どういった施設、設備が人気であるとか、温浴の歴史についてプレゼンテーションするのが『現状認識』です。これは、オーナーさんに現状の銭湯・温浴業界や類似の業界にまつわる現状を俯瞰(ふかん)してもらうための工程です。これは社会的なことなので、どの物件でも同じ。
『将来のビジョン』は、オーナーさんの考えを引き出すためのものです。例えば御谷湯さんだったら、銭湯を通じた福祉活動をやりたいというビジョンをもともと持っていた。自前のビジョンがないケースでは、私から案をぶつけて、何かしらを紡ぎ出していく。先の大蔵湯はまさにそれが形になった例ですね。
『独自性』は、お店の個性となるような要素。例えば御谷湯さんのある場所は葛飾北斎生誕の地だったので、ペンキ絵は絵師さんにお願いをして浮世絵を描いてもらったりですとか。
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